『Special Edition③』
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「怒ってる?」
「…………あ?」
「怒ってる!」
「……」

 結局、UFOキャッチャーでピーちゃんを取り損ねた仁くん。
 帰りの車内でずっとブスくれている。
 私よりUFOキャッチャーが得意の詠ちゃんが、なんと1回で取ってくれたのだ。

 詠ちゃんを自宅に送り届け、私の自宅へと向かっている車内はお通夜状態。
 鉄さんも『今は放っておいて下さい』と目で訴えてくる。

 普段何でも完璧にこなす彼だから、今日みたいなことは本当に稀だけど。
 彼も私と同じ人間なのだと改めて思い知る。

 勉強もスポーツも何でも簡単にこなす彼は、いつだってヒーローで。
 見た目もカッコいいから、私なんていつか捨てられるんじゃないかと思ったりするけれど。
 彼にも苦手なことがあるんだと知れたことが何よりも嬉しい。

 ワンボックスカーの後部座席に座る私たち。
 隣りに座る仁くんの肩にこつんと頭を寄せる。

 教室でずっと考え込んでいたのは、苦手なUFOキャッチャーで、どうやったらピーちゃんが取れるのかを脳内シュミレーションしていたらしい。
 そんな可愛い一面を知ったら、とろとろに蕩けるほどに甘やかしてあげたくなる。

「鉄さん」
「あいっ、何でしょう、姐さん」
「車を組にお願いします」
「はい?」
「今日は仁くんちに泊まります」
「ッ?!……小春」
「次の日が休みじゃないけど、いいよね?」
「…………それは構わないけど」
「じゃあ、決まり!」
「了解しやした。朋、屋敷に車を回せ」
「へい」

 運転手の朋宏さんに指示を出した鉄さん。
 仁くんはちょっとだけ機嫌が直ったみたい。
 窓の外を眺めながら口元を手で隠してるけど、顔が緩んでるの分かってるからね?
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