『Special Edition③』


「お邪魔します」
「あらやだ。そこは『ただいま』が正解よ」
「……ただいまです」
「はぁ~い、おかえりなさい♪」

 私の急な訪問なのに、快く歓迎してくれるママさん。
 男だらけの大所帯を切り盛りするだけあって、貫禄がある。

「小春ちゃんがいるなら、うどんにしましょうか」
「へい、姐さん」

 マキシ丈のスカートを揺らしながら組の若い衆を数人連れて、台所へと向かって行った。

「仁くん、数学の宿題教えて?」
「数学?」
「うん」
「いいよ」

 離れにある部屋へと向かう彼を追って、長廊下を進む。

「姐さん」
「ん?…………(分かった)」

 隣りを歩く鉄さんが、スマホの画面を見えるように差し出して来た。
 そこには、『兄貴の機嫌取り、お願いしやす』と書かれていた。
 私は鉄さんに指でOKサインを出した。

 仁くん臍が曲がると、組の人達に当たり散らすから。
 原因は私にあるもんね。
 私のために『ピーちゃん』を取ってくれようとしたのだから。



 【関数 f(x)=2x2−3 の x=2 における微分係数を定義に従って求めよ】

「平均変化率と極限値の考え方を使って解いてみ?」
「……極限値?」
「あ、……そこから?」
「教科書確認するから、ちょっと待って」

 数学は苦手。
 並んでる数字見てると暗号みたいで、頭の中が悶々とするんだもん。

「あっ、あった。これを応用すればいいの?」
「うん」
「とりあえず、自力で解いてみるから、違ってたら教えて」
「ゆっくりでいいからやってみ」

 仁くんは机に頬杖をついて、優しい眼差しを向けてくる。
 ついさっきまでの苛立ちはもう無さそうだ。
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