『Special Edition③』
***

「小春は?」
「詠さんと先に帰りやした」
「……」

 12月上旬の放課後。
 担任に呼ばれ職員室に行ってる間に、愛しの小春は栗原と一緒に帰ったと鉄が言う。

「俺、何かしたか?」
「はい?」
「……このところ、避けられてるんだよな」
「マジっすか?そんな風には見えないっすけどね」

 学校では至って普通なのだが、何故だか、2人きりになるのを避けている気がする。
 『家に遊びに来い』と言っても『用がある』と言うし。
 休みの日に『デートしよう』と誘うと、『先約が入ってる』だの抜かしやがって。

 いつだって暇なわけじゃない。
 仕事もあるし、組のこともあるから。
 時間が取れたら、小春を最優先にしてるってのに。

「姐さんに嫌われるような事をしたんすか?」
「してねーよ」
「姐さん以外の女に、鼻の下を伸ばすとか「ぶっ殺すぞ」
「すいやせん」

 ここ半月ほどのことを思い出してみるが、どうにも解せない。
 勉強だって丁寧に教えてるし、あいつの好物のケーキだって行列に並んで買ってきてやってるし。

 それこそ鉄が言うような、あいつ以外の女に見惚れるようなことなんて一度もないのに。

「マンションに隠したりしてないっすよね?」
「あ?」
「アレっすよ、アレ」
「……ねーよ」
「じゃあ、何すかね~」

 アレとは、ベッドの下とか本棚の本裏とか、クローゼットの奥の奥にこっそりと隠しておくようなやつのこと。
 ある程度の年齢の男にとっては必要不可欠のようなものだが、そんなものに縋るくらいなら、小春をその気にさせる方が何倍もいい。

「組のやつに張らせますか?」
「……いや、いい。バレたら後で何言われるか」
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