『Special Edition③』
「仕事するぞ」
「へい」
門横に横付けされた車に乗り込み、会社へと向かう。
「あっ!!」
「ッ?!……どうした?」
「……いや、何でも無いっす」
「あ゛?」
「すいやせん、観たいテレビを録画しておくのを忘れただけです」
「三下(若い衆)に頼んどきゃいいだろ」
「……へい」
黒塗りのセダン車の後部座席に座る仁にチラッと視線を向けた鉄は相槌を打ち、すぐさまスマホでメールを入れる。
『12日のスケジュールは空けといた方がいいっすよね?』
『学校がある日だから、19時以降を空けて貰えたら……』
『了解っす』
仁に気付かれぬようにやり取りした鉄は、秘書の黒川に極秘でスケジュールを空けるように指示を出す。
それと同時に、組員のみで構成されている連絡網を使って、鉄は幾つかの指示を出した。
***
12月12日の放課後。
小春は仁の目をかいくぐって、足早に学校を後にした。
「小春、頑張ってね!」
「うん、頑張る!!」
正門前で親友の詠と別れ、鉄が密かに用意した組の車に小春は乗り込んだ。
*
「小春は?」
「用があるとかで、さっき慌てて帰って行きやした」
「今日も?」
「バイトでもしてるんすかね?」
「バイト?」
「兄貴に言えないっつったら、それくらいしか思い浮かばないっすよ」
「……」
鉄は上手くかわしたつもりだが、仁の機嫌が一瞬で悪くなった。
綺麗な顔がみるみるうちに歪み、眉間に深いしわが刻まれる。
「兄貴?」
「あいつの居場所を突き止めろ」
「はい?」
「バレないようにシキテンさせておけ」
「…………へい」