『Special Edition③』
絞り袋を持つ手が震える。
(大丈夫、あんなにも練習したじゃない)
自分自身に何度も言い聞かせるように、心の中で唱えて。
小春はフッと息を吐き、丁寧にクリームを絞り出した。
**
「仁くん、今どこ?」
「会社にいる」
「お仕事何時頃までかかりそう?」
飾り付けを終えた小春は自宅に帰宅し、甘ったるいケーキの匂いを取るべくシャワーを浴びた。
そして、手早く髪を乾かし、仁に電話をかけたのだ。
ここ半月ほど、軽く無視してしまったような状態だから、会話するのもちょっと緊張する。
「もう帰れるけど」
「じゃあ、うちまで迎えに来て」
「……分かった」
電話を切った小春は、仕事中の母親にメールを入れる。
『帰り、仁くんに送って貰うから』
今日は仁のマンションに行くと予め伝えてあって、事前準備は万端。
「プレゼントも持ったし、メイクも大丈夫だよね?」
鏡を覗き込んで最終チェック。
*
仁と小春を乗せた組の車は、ママさんが予約してくれたパスタ屋さんに到着した。
「なるほどな。だからスーツじゃなくて普段着なんだ」
「仁くん、生パスタ好きでしょ?」
「……おぅ」
鉄二が用意した普段着に着替えた仁。
小春が予約したのだと勘違いしている仁は、一瞬で破顔した。
若いカップルがディナーデートをするとなると、どうしても目立ってしまうため、いつも個室があるお店をよく利用している。
このパスタ専門店はそんな気取ったお店ではないが、1卓ずつ独立しているテーブル席になっている。