『Special Edition③』

 仁くんはサーモンのクリームパスタセット。
 私はベーコンと茄子のトマトソースパスタセットにした。

 サラダとスープとドリンクがセットになっていて、今日のスープはきのこの中華スープのようだ。

「デザート頼んでないぞ?」
「今日はいい」
「腹でも痛いのか?」
「そうじゃなくて、今日は要らない気分なの」
「珍しいな」
「……」

 そりゃあ、いつも必ず頼んでるからね。
 不思議に思って当然かもしれないけど。
 今日はちゃんとデザートを用意してあるんだから。

「何かいいことでもあったのか?」
「ん~~、まぁね」

 テーブルに頬杖をついて私を熱く見つめてくる。
 本当に気付いてないのかな……?

『姐さん、兄貴、完全に忘れてるっす』

 何日か前に鉄さんに探りを入れて貰ったけど、本当にそれらしい雰囲気が微塵もない。
――――今日は、仁くんの誕生日なのに。

 幼い頃からずっと一緒だから、とりわけ記念日をつくったりしてない二人。
 クリスマスやバレンタインは、周りが騒ぐから必然的に分かるみたいだけど。

 今日のために、桐生家と仁くんの会社のカレンダーやスケジュールボードなどには、一切印が付けられていない。
 だいぶ前から準備している小春は、仁の両親に協力して貰い、情報の漏洩を防いで貰ったのだ。



「どうしよう、もうお腹いっぱい」
「もう出てくるものないし、お腹いっぱいならいいだろ」
「……(それじゃあ、ダメなのっ)フゥ~」

 何気に生パスタって、お腹に溜まるんだよね。
 麺好きの私でも、ちょっと苦しい。
 仁くんは好物だから、ぺろりと平らげたけど……。
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