『Special Edition③』
1月上旬。
「大丈夫か?」
「……ん、辛うじて何とかね」
「忍は風呂入れて、寝かしつけてあるから」
「ありがと、ホント助かるよ」
私、楢崎 つぐみ(33歳)は、大手スポーツメーカー『WING』の経理部に勤務していて、年末年始休暇中だというのに、既に10連勤。
経理部にとって、月末月初は嵐そのもの。
データ化されているとはいえ、全ての業務が軽減されたわけではなく、経理部は会社カレンダーには沿わず、業務に追われる。
とはいえ、全く休みがないわけではなく、業務が落ち着けば、交替で連休を取れる仕組み。
同じ会社に勤務している、法務部所属の敏腕弁護士の旦那様(峻・33歳)に愛息子の面倒を任せ、つぐみは怒涛の月末月初を乗り越えたところ。
帰宅して、開口一番に優しい言葉をかけてくれる旦那様にぎゅっと抱きついた。
「煮込みうどん作ってある」
「至れり尽くせり~~」
「デキる旦那で惚れ直すだろ」
「うん」
4歳の息子を任せっきりで、朝から晩まで家を留守にしているだけでなく、この時期は家事も疎かになりがち。
少数精鋭の経理部は万年人手不足。
しかも『課長』という立場上、先に帰るわけにもいかないのだ。
超絶イケメンの旦那様の顔を見上げているのに、彼の顔に電卓の数字がちらつく。
重症だ。
「気持ち悪いか?」
「え?」
「目が回ってるっぽいけど」
「……フフッ」
「何かおかしなこと言ったか?」
「よく見てるなぁと思って」
「当たり前だろ。帰宅途中で倒れてないか、無茶苦茶心配してるんだからな」
「……ありがと」