『Special Edition③』
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「たいちょう!」
「シッ」

 東の空が僅かに薄明をともし始めた朝方5時30分、少し前。
 人差し指を口元に当て、差し出された小さな手からスマホを受取った峻は、柔らかい猫っ毛の(しのぶ)の頭を優しく撫でる。

「忍隊員、ご苦労であった」

 父親である峻に褒められ、忍の小さな口元がにっと横に引き結ばれた。
 峻は忍が持って来たつぐみのスマホのキーロックに『0115』と入力する。
 1月15日は、2人の入籍日なのだ。
 そして、5時30分にセットしてあるアラームを解除する。

「では、くれぐれも姫様を起こさぬよう気をつけて」
「はいっ」
「シーッ」

 カッコよく敬礼のポーズをした忍に声量を落とすように指示し、父子はニヤッと視線を絡ませた。

 峻が荷物を車に積み込んでいる間に、30分ほど前にコンビニで買って来た朝ご飯を忍は楽しそうに食べ始めた。
 
 ハムサンドと味付け卵、それと忍の大好物のプリン。
 峻が温めたホットミルクが添えられ、忍はルンルンでそれらを口に運ぶ。

 1月中旬の今日は、やっと連休が取れたつぐみを労うように、二人で温泉旅行を計画しているのだ。
 そんなこととはつゆ知らず、つぐみは気持ちよさそうに寝息を立てながら羽毛布団に包まっている。

 初めてのサプライズミッションとあって、忍は年末からこの日が来るのを今か今かと楽しみにしていた。
 だって年末年始の休み中、大好きなママはお仕事でずっと不在だったから。
 楢崎家の、ちょっと遅いお正月休みみたいなものだ。

「たいちょう、ごはんたべおわりました」
「早いな。じゃあ歯磨きして、終わったらスカイレンジャー観ててもいいぞ」
「ラジャー」

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