『Special Edition③』
日本庭園に囲まれた回廊の先にある6室限定のプライベートヴィラ。
プレシャスでゴージャスという言葉がマッチするように、特別なひとときを満喫できる雰囲気。
「お高そうなお宿ね」
「クライアントの行きつけらしくて、口添えして貰ったから」
「……そんなことして貰って、大丈夫なの?」
「大丈夫。信頼関係があってこそのなせる業だから」
「それならいいけど」
クライアント……私たちが勤務する会社『WING』の顧客を意味している。
大手のスポーツメーカーだから、顧客はプロのアスリートだと思うけれど。
お忍びで訪れるような場所を教えて貰って、大丈夫なのかしら?と心配しなくもないけれど。
まぁ、峻のことだから大丈夫でしょう。
「パパ、おんせんいつはいるの?」
「夕ご飯食べる前に入るか」
「やったぁ~~」
お風呂好きな忍は、部屋の中をぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「ほら、怪我するから気をつけて」
「はぁ~い」
露天風呂付客室なのも、朝夕完全部屋食なのも、忍のことを考えてだと思う。
小さい子供がいると、騒音とか食事とか、気を遣う場面はきりなくあるから。
「一息ついたら、3人で風呂に入るか」
「3人で?!」
「部屋つきの風呂なんだから、別にいいだろ」
「……」
良いか悪いかで言ったら、悪くはないけれど……。
これまで何気に3人で入ったことが一度もないから、ちょっと躊躇ってしまう。
「私は抜きにして、2人で入ったら?」
「ママもいっしょにはいろうよ!おうちのおふろよりおおきいから、ママもいっしょにはいれるよ」
「……」
そういう問題じゃないんだけどね……。
まっ、いいか。
たまには家族サービスするのも。
明日は結婚記念日だしね、うん。