『Special Edition③』


「こいつがいなくなったら、マジでヤバいな」
「予備で幾つか買っておかないとだね」
「ホントだな」

 スカイレンジャーのフィギュアを握りしめて寝ている忍を、つぐみと峻は優しく見つめる。
子供あるあるなのかもしれないが、つぐみも峻も子供の頃にハマった物がなく、忍の陶酔っぷりに呆気に取られる毎日。
 しかも、スカイレンジャーを演じている若手俳優たちが、未だかつてないほどにイケメン揃いとあって、ママ世代にも空前のブームなのだ。

「峻、ありがとうね」
「ん?」
「こんな素敵なお宿に連れて来てくれて」
「……どう致しまして」

 ベッドに腰掛けているつぐみは、浴衣に羽織姿のイケメン旦那様にそっと凭れかかった。

 和モダンな部屋は、畳敷きの上にソファやベッドが置かれ、和と洋のテイストが調和するこだわりの趣。
シングルベッドがピタリと合わさっていて、小さな子供がベッド脇に落下することもないような工夫がなされている。
 部屋の外にはテラスが設えてあり、ゆっくりと寛げるようにソファまである。

「明日のプランは?」
「スペイン村と赤福三昧」
「いいわね」
「歩き疲れれば、夜しっかりと寝るだろ」
「……そうね」

 明日が何の日か、確認しなくても分かってるっぽい。
子供が寝静まってから、夫婦の時間があるのかしら?と、期待してしまう。

 月末月初は地獄のような怒涛の日々だったから、夫婦の会話も殆ど出来ずに新年を迎えてしまったし、毎月のように育児も家事も任せっきりだから、彼にもゆっくりと休息を取って貰いたい。

「お酒飲む?」
「う~ん、どうしようかな。飲むとしても1杯程度にしとこうかな」

 彼の顔を見上げると、ふわりと優しく抱きしめられた。
 浴衣の奥から、自分と同じ柑橘系の爽やかなボディソープの香りが鼻腔を掠めた。
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