『Special Edition③』

 缶ビール1本でとろんとした表情になっているつぐみ。
 峻の腕の中で、先ほどからヘヘヘッと愛らしい笑顔を炸裂させている。

 そんな妻を抱き包み、峻は幸せを噛みしめる。

 二度と誰も好きにならないと揺るぎない決意をしたはずなのに。
 今では180度世界が塗り替えられた。

 今でも年に数回、あの女に会う機会はあるけれど。
つぐみがいてくれるおかげで、今では何とも思わなくなっている。
むしろ、あの頃の地獄の日々があったからこそ、この幸せを噛みしめられているのだと思うほどだ。

「峻、ちょっと待っててね」
「ん?」
「ヘヘヘッ」

 ほろ酔いの妻は、キャリーケースから小さな包みを取り出して来た。

「これからも、よろしくね」

 あぁ、結婚記念日の……。

「俺からもある」
「えっ?……この温泉旅行がプレゼントなんじゃないの?」
「いや、これは家族サービスの一環だから」

 旅行自体は忍に強請られて計画したもの。
 スカイレンジャーのロケ地にスペイン村が使われていて、聖地として保育園で人気らしい。
関東からは距離が少しあるから、なかなか聖地巡礼できる園児は少ない。
だから、ちょっとした優越感に浸りたいのだろう。

 普段から我慢させることが多い分、こういう時は思いっきり甘えさせてやらないとな。

 俺もキャリーケースの中から、用意しておいたプレゼントを取り出して、お互いにそれを交換した。

「わぁっ!何これ、可愛いっっ」

 クリスタル状のパズルのピースが横並びになっているアートフレーム。
家族3人の名前がそれぞれのピースに彫られている。
それとお揃いで、メモスタンドも特注で作った。
仕事上、メモすることが多い彼女に、家族の存在を身近に感じて貰いたい想いを込めたものだ。
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