『Special Edition③』
***

「ただいま」
「お帰りなさい、お仕事お疲れ様です」
「茜もな」

 20時過ぎに帰宅した愛しの旦那様・白杜さんは、夕食を作っている私の元へとやって来て、優しい笑みを浮かべた。

 いつもは洗面所で手洗い・うがいをしてから、ウォークインクローゼットに着替えに行くけれど、私がキッチンにいるからか、暫く調理する私を眺めている。

「何かありましたか?」
「ん?」
「着替えに行かないから」
「行って欲しいの?」

 意地悪な言い方。
 7歳も離れているから気持ち的に余裕なのか、いつも私の反応を楽しんでる。

「両手を広げてくれたら、ハグしてあげますよ」
「おっ、そう来たか」
「ちょっと屈んでくれたら、キスもしてあげますけど」
「フフフッ、……完敗、俺の負けだな」

 私から無条件で甘えて欲しいのだろうけど、私にそんなスキルはない。
 お酒が入ってたら少しは羞恥も薄れるだろうけど。

**

 ハヤシライスと中華風のスープ、シーザーサラダ。
 久しぶりにじっくりと夕食を作る時間があったから、白杜さんが好きなメニューにしてみた。

「お味はどうですか?」
「旨いよ。こんな味のドレッシングあったっけ?」
「さすがですね。それ、台湾便の戦利品です」
「あぁ、この前言ってた薬膳の店のか」
「はい」

 今若い女性に人気の薬膳料理専門店で取り扱っている限定のドレッシング。
 効能別に生薬がふんだんに使われていて、疲労回復やアンチエイジングなど、幾つか自宅用に買って来たのだ。

 料理好きな彼には敵わないなぁ。
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