記憶をなくした海
諒は、とても真面目な人だが、飲酒や喫煙の習慣ならある。

「お酒はともかく、煙草は身体に悪いよ?」

そう言ったこともあるが、

「ヘビースモーカーじゃないし、寧々と一緒の時には絶対に吸わないから」

趣味も少なく、友達もあまり多いとは言えない彼から、嗜好品まで取り上げる資格は、恋人の私にもないと思い、あまり強く言うことはなかった。

こんなことになるのなら、止めるべきだったのだろうか。

何もかも、後悔だらけだ…。

もし、諒が助からなかったら、私は間違いなく後を追う。

諒なしでは生きてはいけないことを思い知らされたから。

裏切った恋人に後追いされたって、迷惑にしかならないとしても…。

彼の健康のため、何が何でも禁煙させていたら、こんなことにならなかったのかもしれない。

「あなた、すぐに救急車を呼んだそうですね?」

ドクターに聞かれ、黙って頷く。
< 14 / 22 >

この作品をシェア

pagetop