姫と僕〜僕達は盲目的に想い合う〜
「――――大丈夫だった?」

一基とも別れて、今は電車に乗っている二人。
乗客はまばらで、秋穂は比較的リラックスしている。

そんな秋穂に問いかける、嵐人。

「え?何?」

「僕がいなくて、不安だったんじゃない?」

「あ…うん…」 

「アキ。
いいんだよ?
“嵐くんと離れたくない”とか“帰りたい”とか言っても」

「でも…
それはさすがに感じ悪いでしょ?」

「でも、アキに無理させたくない」

「でも……」

「ん?」

「嵐くんに、一つ聞いておきたいことがあるの」

「ん?何?」

「嵐くんがアルバイトしようと思った理由って、その……
……………私から離れたいから?」

「………は?
何、言ってる…の?」
嵐人が固まる。

秋穂が何を言ってるのかわからなかったから。

「さっきね。
男女に別れたのって、私と嵐くんを少しの間離すためだったみたいなの。
私達ずっと一緒だから“たまには離れたいとか思わないの?”って聞かれて…
私はね。
嵐くんと“離れたい”なんて、思ったことないの。
むしろ“片時も離れたくない”って思ってる。
でも、もしかしたら…嵐くんは違うのかなって…
“離れたいから”アルバイトしようと思ったのかなって……!」

「冗談やめてよ!!!」
思わず、声を荒らげる嵐人。

「え……!?ら、嵐く…」
声を荒らげることがない嵐人に、かなりびっくりしてビクッと怯える。

「あ…ご、ごめんね!
で、でも!
アキが悪いんだよ?
酷いこと言うから」
怯える秋穂の手を慌てて握り、顔を覗き込んだ。

「え?私はそんなつもり……」

「僕がアルバイトをしようと思ったのは、社会勉強のため!
絶対に“アキから離れたい”なんて、あり得ない!」

「そっか…良かった…!」

「うん、そうだよ!
だからお願い、もう…そんなこと例え冗談でも言わないで……!?」

「わかった!
ごめんね、変なこと言って……」

「ううん…」
そう言って嵐人は、秋穂を力強く抱き締めた。

「ちょっ…嵐くん、ここ電車の中……」

「うん…でも、我慢して?
アキが変なこと言うからだよ?」

嵐人は、秋穂の肩に顔を埋め切なく呟いた。
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