姫と僕〜僕達は盲目的に想い合う〜
落ち込んだようにトボトボ歩く、秋穂。

嵐人は近くにいた女性達に声をかけられ、楽しく会話していた。 

いつも秋穂の傍を離れず、秋穂以外の人間と話もしない嵐人。 

あまり見ない光景に、秋穂の不安と嫉妬心は膨らみ“来なきゃ良かった”と後悔を生んでいた。


駅に向かっていると、後ろからバイクが近づいて来て秋穂の前で止まった。

「秋ちゃん!?」

ヘルメットを外した人物は、一基だった。

「一基くん?」

「髪、切ったんだ〜!
ヤバ…/////可愛すぎ!!!」

「あ…ありがとう…」
褒めてもらったのに、今は喜べる心境ではない。
さっきの光景が、頭の中にこびりついているからだ。

「どうしたの?」

「え?あ…ううん!」

「………ねぇ!
どっか行かない?」

「え?」

「とっておきの場所があるんだぁ!
そこ、涼しいし!
行かない?
もちろん、ランが帰るまでには帰すから!」

“僕のバイト中、一基と二人で会ったりしないで”

嵐人の言葉が、頭の中をよぎる。
でも、秋穂の頭の中には先程の光景。

「うん、行こうかな…」

「よし!
じゃあ…はい!」
ヘルメットを渡され、バイクに跨った。

「ちゃんと掴まっててね!」


そして着いたのは、山の上の公園だった―――――

「ここさ、山の上だから涼しいし、川が流れててスゲー冷たくて気持ちいいんだ〜!」

「へぇー!
確かに、風が冷たくて気持ちい〜」

「だろ?」

川の水に触れてみる。
「冷たーい!
気持ちい〜!」

「フフ…だろ〜?」

「嵐くんにも教えてあげたいな!」

「………なん…で?」

「え?一基くん?」

「なんで、ラン?
今は俺といんだから、ランの話はやめろよ…」

「え?一基…くん?」
一基の切ない声色に、秋穂が固まる。

「え?あ…ご、ごめん!!
…………え、えーと…あ!川、入ってみない?」

「え?」

「気持ちいーよ!」

そう言って一基は、靴と靴下を脱ぎ、川に足をつけた。
一基の足首くらいの水かさで、一基は「気持ちい〜!!」と笑う。

「秋ちゃんも、入りなよ!
気持ちいーよ!!」

「う、うん」
サンダルを脱いで、ゆっくり足を浸けた。
< 20 / 37 >

この作品をシェア

pagetop