姫と僕〜僕達は盲目的に想い合う〜
秋穂の姿に、嵐人は理由を理解した。

嵐人は、自身のシャツを秋穂に着せた。
そして一基にシャツを返した。

「あ、洗濯…」 
「え?必要ないよ。
ね?一基」

「あぁ」
一基が受け取る。

「アキ、帰ろ?
早く、シャワー浴びなきゃ!
なんか汚れてるし、それに髪も切ったんだね!
可愛いな!
でもせっかくのセットが、台無しだよ?」

「う、うん…」

微笑んでいる、嵐人。
でも、その笑顔が凄まじく恐ろしい。

「あ、一基くん、ありがとう!
帰り、気をつけてね!」

「おぅ!
“また”行こうな!
今度は、ランも一緒でいいから!」

「うん!」

「ほら、アキ!」
嵐人に引っ張られるように、マンションに入った。


繋いだ手の力が、妙に強い。
痛いくらいだ。

こんな嵐人は初めてで、秋穂は戸惑っていた。

「アキ」
「え?は、はい!」

エレベーター内で名を呼ばれ、思わず敬語になる。

「帰ってすぐ“一緒に”シャワー浴びたら、聞きたいことがあるんだ」

「う、うん。
あ、あの…嵐くんも浴びるの?」

「そうだよ。
僕も汗かいたし」

(こ、怖い…)

物腰の柔らかい嵐人は、どこに行ったのだろう。
それくらい、恐ろしくて堪らない。

自宅に着き、風呂場に直行する。
嵐人に服を脱がされ、一緒にシャワーを浴びる。

髪や身体も嵐人が洗い、秋穂はされるがままだった。


風呂場を出て、ドライヤーを持った嵐人に「髪の毛乾かしてあげるから、おいで?」と言われる。
言う通りに嵐人に髪を乾かしてもらい、二人はソファに並んで座った。

そして秋穂の手を両手で包み込んだ嵐人が、秋穂の顔を覗き込んだ。

「アキ、僕の質問に正直に答えて?」

嵐人の鋭くて真剣な眼差しに、秋穂はゆっくり頷いた。

「髪の毛、なんで切ったの?」

「え?気分転換だよ」

「気分転換?」

「うん。
嵐くんがいないの寂しくて、でも…しっかりしなきゃって思って!」

「そっか!」

「どう?」

「可愛いよ、すっごく!
もっと可愛くなったから、惚れ直しちゃった!」

「フフ…良かった!」

「………あと、もう一つ」
微笑んでいた嵐人が、また真剣な眼差しになる。


「どうして“一基と二人で”いたの?」
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