姫と僕〜僕達は盲目的に想い合う〜
「一基、何か言った?」  

満面の笑み。
でも……声色と雰囲気は黒く淀んでいる、嵐人。

「別に〜」
一基は、特に何の反応もなく視線を前に向けた。

しかし、他の友人達は「こ、こえぇ…」と怯えていた。

一基は、嵐人と秋穂の高校の同級生。
性格はいわゆる陽キャで、明るく男女限らず友人も多い。

嵐人は物腰の柔らかい紳士だが、秋穂に一筋なのであまり友人とつるまない。

それでも一基とはウマが合い、仲良くしている。

講義が始まり、隣に座っている一基がちぎったノートの端を見せてきた。

【秋ちゃんに言った?バイトのこと】

嵐人はそれに【うん】と書き渡す。

【秋ちゃん何て?】

【最初は猛反対してたけど、なんとか受け入れてくれた】

【その間、秋ちゃんどうすんの?】

【留守番だけど。なんで?】

「………」
嵐人の返事を見て、一基が頬杖をつきボールペンをくるくる回しだした。

そんな一基に、嵐人が自身のノートをちぎりサラサラと書いて渡す。

【勝手に、アキに会ったりしないでね】

すると一基が、嵐人を見てニコッと笑った。


「――――ねぇ“あの笑顔”何なの?」
講義が終わり、一基に問いかける。

「んー?
まぁ…ご想像にお任せしま~す!」

「は?
一基!!」

「あ!秋ちゃん、迎えに行かないとじゃね?」

「………」
嵐人は少し不機嫌になり、秋穂の待つ講義室に向かった。

講義室の前では……秋穂が待っていて、嵐人を認めるとふわりと笑って小さく手を振ってきた。

「……/////ほんと、可愛すぎ//////」

この笑顔が“自分だけに”向けられてると思うと、優越感でいっぱいなる。

「ごめんね!遅くなっちゃった…」

「ううん。
私こそ、いつもありがとう!」

「フフ…僕が好きでしてることだから、大丈夫だよ!
さ!行こ?
アキは次、大講堂だよね?」

秋穂の手を握り、微笑む。
秋穂も頷き、微笑んだ。

「声、かけられなかった?」
「え?あ…少し…」

「そっか…ごめんね、僕が遅かったからだよね?」
「ううん、大丈夫!
みんな嵐くんのこと知ってるから、しつこく声かけてくる人はいないし…」

大学内で、嵐人と秋穂のことを知らない人はあまりいない程、二人のことは学生みんなが知っている。

それくらい、嵐人と“特に秋穂は”有名人だ。
< 4 / 37 >

この作品をシェア

pagetop