重いと言われても、止められないこの想い。~素敵過ぎる黒獅子騎士団長様への言い尽くせぬ愛~
 それに、ラインハルト殿下は外見上は申し分のない女性が夢見る王子様だ。幼いころから何でもこなす優秀な王太子として知られ、政略結婚であったとしても、相手が恋に落ちて本気になってしまっても仕方ない。

 事故で亡くなってしまった婚約者に対し、ラインハルトは彼女の喪に服するとして、数年経った今も、未だに誰とも婚約していない。

「……ナッシュ団長。こちらです」

「悪い。遅くなった」

 俺が地下の部屋に入れば、やはり尋問を既に開始していたようで、全身ズブ濡れになった半裸の男二人が床へと倒れていた。

 剥き出しの背中には、何もない……あの中途半端な獣化はなんだ。獣人は人の姿で耳や尻尾が残ることがあるが、あれほどの特徴を出しているならば、完全に獣化しているはずなのに。

 ……あの姿はおかしい。

「……ナッシュ団長、お疲れ様です」

 先んじてその場に居たマティアスがこちらを見て、黙ったままで首を横に振った。

 情報は得られていないと、そう言いたいのだろう。まあ、それはそうだろうなと思う。

 こういった犯罪組織に属する連中は、まず最初に教え込まれるのだ。

 もし、敵側に捕らえられた時に、何か情報を話してしまえば、自分が残した大切な存在が、どうなってしまうのか。

「何かを言ったか」

「いいえ。悲鳴すらも洩らしません。翼のあった背中にも仕掛けがあると思いましたが、結局は何もありませんでした」

 最近、国を騒がせているる盗賊は、彼らが根城とするアジトを突き止め追い詰めたとしても、全員が煙のように姿を消してしまう。

 中途半端に獣化したあの妙な姿といい、今までになかった何かが、このユンカナン王国で起きていることは間違いなかった。


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