あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を。

不倫旅行

 吉高は「行って来るよ」と車のエンジンをかけた。手摺りに掴まりながら「気を付けてね」と手を振る妻、吉高は一泊二日の京都大学病院で開催される学会に参加すると偽の印刷物まで用意した。そして自宅から然程(さほど)遠くない兼六園下のバス停留所で恋人と待ち合わせ、金沢の奥座敷と呼ばれる湯涌温泉へと向かう。

「先生、おはようございます」
「おはよう」

 紗央里は悪びれた様子も無く黒のBMWに乗り込んだ。助手席の不倫相手を苦々しく見た吉高はやや棘の有る声でその名前を呼んだ。

「紗央里、こんな人の多い停留所を選ばなくても良いだろう」
「だって、家から近いんだもの」

 紗央里としてはいっその事、医局の同僚に《《見られたい》》と思っていた。それは仙石医師の不倫が公になれば離婚し自分と再婚するだろうという浅はかな考えだった。

「まぁ、良いけど」
「あ、ここ、先生のお家がある所ですよね」
「近いな」

 吉高の運転するBMWはクリーニング店の前を通り過ぎ、職場である大学病院を横目に湯涌町へと向かった。紗央里は誇らしげにそれを見遣った。なにも知らないあの女は家で夫の帰りを待ち、同僚たちはナースコールに右往左往している。青空が眩しく心は弾んだ。
 紗央里がBMWに乗り込むと柑橘系のオードトワレの香が舞い上がった。シャネルのチャンスオーヴィーヴ、紗央里が香水を買って欲しいと駄々を()ねたので鼻の利く明穂に不倫が発覚しない様に同じ銘柄を選んだ。

「あ、ん」

 普段は病棟の薄暗いカルテ保管庫で済ませる情事、有給休暇を取得した2人は車での移動時間も惜しく近場の温泉宿を選んだ。

「あ、せんせ」

 女将に予め布団を敷いておいてくれと頼み部屋に通されるなり吉高は紗央里のワンピースを脱がせて畳に倒れ込んだ。

「もう濡れてる」
「やだ、もう、止めて下さい」

 黒いパンティストッキング越しの白いインナーには染みが出来、女性特有の匂いが吉高自身をそそり立たせた。激しく興奮した吉高はストッキングの股座(またぐら)を掴むと勢いよく引き裂き、顕になったインナーにむしゃぶりついた。

「あぁ」

 隙間から舌を差し込み出し入れすると熱い吐息が漏れた。

「好きだ、好きだ紗央里」

 その言葉が耳に届いているのかいないのか、それすらも定かではない紗央里は喘ぎながら脚を大きく開いて身悶えた。

ぐちゅ

 インナーを脱がせ指を2本、3本と挿入すると紗央里は腰を前後に振り、物欲しそうな目で吉高を仰ぎ見た。

「あぁ」

 吉高はネクタイを外ずす事なく半裸で紗央里の中へと押し入った。

「やだ、先生」
「病室でやってるみたいだろ」

 激しく腰を前後させると敷布団のシーツが乱れた。

「私だけ脱いじゃってーーーずるい」
「犯しているみたいで興奮する」
「えっち」

 吉高は紗央里を寝転がせると腰を上げてうつ伏せにさせた。

「嫌らしいのはおまえだろう、もうこんなになってる」

 突起に指を這わせて臀部を奥まで突くと紗央里は雌の呻き声を上げて長い髪の毛を振り乱した。

「あ、あ」
「ほら、ほら、もっと欲しいんだろ」
「あ」
「腰、振れよ!ほら!」
「ああっ!」

 紗央里が果てた事を確認した吉高はありとあらゆる体位を堪能し腰を振り続けた。背後から抱え上げ紗央里の身体を上下させるとより深い部分へ自身が埋もれるのを感じ尾骶骨(びていこつ)から脳髄に痺れが走った。そこで自身を紗央里から抜き取って突き放した。

「やだ、痛い!」
「ふぅ、やばかった」

 紗央里の背中に飛び散る白濁した体液。吉高は快楽に酔いしれコンドームを着けずに情事に耽った。
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