あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を。
女の影
タクシーの後部座席で明穂はデジタルカメラのモニターを見た。近距離で撮影した吉高の顔は写っていた。ただし、その面立ちが鮮明かどうかは大智に確認して貰わなければ分からない。
(画像がぼやけてなければ良いけど)
流れる車窓に虚な自分の顔が映った。
(この目が見えていたら、こんな事にはならなかったのかも)
一筋の熱いものが頬を伝う。
(もうあの家には帰りたくない)
明穂はなにか理由を付け実家に身を寄せようと考えた。
(逆に吉高さんは喜ぶわね)
自虐的な笑みが溢れた。
(あぁ、荷物、障害者手帳も保険証書も着替えも欲しいわ)
吉高の出勤時間にあわせて自宅に一旦戻る事を考えた。
(ーーーーあ!段ボール箱!)
紗央里と思わしき人物からの気味の悪い荷物の存在を大智に伝えなければならない。実家に帰宅した明穂は婦人会の会合から戻った母親に頼み大智へ電話を掛けた。
「もしもし、大智?」
=この電話はお繋ぎする事は出来ません、電波の=
大智の携帯電話は繋がらなかった。
「あら、繋がらなかったの」
「うん忙しいのかな」
「そうね、まだ17:00だもの、弁護士さんは忙しいのよ」
「ーーー17:00」
吉高はこんな早い時間から《《妻不在の自宅で》》愚かな行為に耽っていた。父親が自慢げに話す優秀な外科医は何処にもいない。
(私、そんな医者に手術されたくないわ)
「どうする?大智くんにもう一度電話してみる?」
「発信履歴で掛け直すから大丈夫、ありがとう」
「で、これからしばらく実家に帰るなんて如何したの」
明穂は母親に痛い所を突かれたが吉高の不倫行為を匂わせる良い機会ではないかと考えた。大きく息を吸い、深く吐いて戸惑う振りをした。母親は明穂の思惑通りに訝しげな顔をした。
「如何したの、なにかあるの」
「それが」
「それが如何したの、喧嘩でもしたの?」
「吉高さんが最近冷たくて」
「冷たいって」
「仕事が忙しいのかなぁ、外出も多くて会話が少なくて寂しいの」
母親は安堵の表情を見せた。
「なんだ、そんな事!28歳、働き盛り仕方ないわよ!」
「でも、お泊まりも多いのよ」
「そりゃあ緊急の手術もあるでしょ、お医者さんの奥さんなんだから明穂が支えてあげなきゃ」
「でも変なの」
そこで若き日の父親に話題が飛び火し良い具合に収まった。
「あんたのお父さんも若い時は接待だとかなんとか家に居たためしがないわよ、ね、お父さん!」
「あ、あぁ。そんな事もあったかなぁ」
「浮気かと思って心配したのよ!」
「そ、そんな筈ないだろう!」
「浮気、如何しよう」
母親は明穂の肩を軽く叩いた。
「あんな真面目な吉高さんに限って浮気なんてない無いない!」
「そうかな」
「そうよ!」
これで実家の父親と母親には《《浮気の布石》》を打つ事が出来た。後は仙石の義父母だが此処は様子見で大智と話し合おう。
(画像がぼやけてなければ良いけど)
流れる車窓に虚な自分の顔が映った。
(この目が見えていたら、こんな事にはならなかったのかも)
一筋の熱いものが頬を伝う。
(もうあの家には帰りたくない)
明穂はなにか理由を付け実家に身を寄せようと考えた。
(逆に吉高さんは喜ぶわね)
自虐的な笑みが溢れた。
(あぁ、荷物、障害者手帳も保険証書も着替えも欲しいわ)
吉高の出勤時間にあわせて自宅に一旦戻る事を考えた。
(ーーーーあ!段ボール箱!)
紗央里と思わしき人物からの気味の悪い荷物の存在を大智に伝えなければならない。実家に帰宅した明穂は婦人会の会合から戻った母親に頼み大智へ電話を掛けた。
「もしもし、大智?」
=この電話はお繋ぎする事は出来ません、電波の=
大智の携帯電話は繋がらなかった。
「あら、繋がらなかったの」
「うん忙しいのかな」
「そうね、まだ17:00だもの、弁護士さんは忙しいのよ」
「ーーー17:00」
吉高はこんな早い時間から《《妻不在の自宅で》》愚かな行為に耽っていた。父親が自慢げに話す優秀な外科医は何処にもいない。
(私、そんな医者に手術されたくないわ)
「どうする?大智くんにもう一度電話してみる?」
「発信履歴で掛け直すから大丈夫、ありがとう」
「で、これからしばらく実家に帰るなんて如何したの」
明穂は母親に痛い所を突かれたが吉高の不倫行為を匂わせる良い機会ではないかと考えた。大きく息を吸い、深く吐いて戸惑う振りをした。母親は明穂の思惑通りに訝しげな顔をした。
「如何したの、なにかあるの」
「それが」
「それが如何したの、喧嘩でもしたの?」
「吉高さんが最近冷たくて」
「冷たいって」
「仕事が忙しいのかなぁ、外出も多くて会話が少なくて寂しいの」
母親は安堵の表情を見せた。
「なんだ、そんな事!28歳、働き盛り仕方ないわよ!」
「でも、お泊まりも多いのよ」
「そりゃあ緊急の手術もあるでしょ、お医者さんの奥さんなんだから明穂が支えてあげなきゃ」
「でも変なの」
そこで若き日の父親に話題が飛び火し良い具合に収まった。
「あんたのお父さんも若い時は接待だとかなんとか家に居たためしがないわよ、ね、お父さん!」
「あ、あぁ。そんな事もあったかなぁ」
「浮気かと思って心配したのよ!」
「そ、そんな筈ないだろう!」
「浮気、如何しよう」
母親は明穂の肩を軽く叩いた。
「あんな真面目な吉高さんに限って浮気なんてない無いない!」
「そうかな」
「そうよ!」
これで実家の父親と母親には《《浮気の布石》》を打つ事が出来た。後は仙石の義父母だが此処は様子見で大智と話し合おう。