あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を。
大智は不倫の証拠となるSDカードをスーツの胸ポケットに仕舞うと「明日、新しいカードを持って来るから待ってろよ!」と言い残して階段を下りて行った。
「ご馳走さんでした」
「また来てね」
「明日も来るわ」
「あ、そう。お素麺で良い?」
「卵宜しく、細っそくて薄っすいの」
「はいはいはい」
そんな遣り取りが階下から聞こえて来た。ふと笑みが溢れ、それが壁に立て掛けた姿見に映った。明穂の面差しは柔らかな輪郭をしていた。
(大智が居てくれてーーー良かった)
そして当然の事だが吉高から「泊まるのか」「いつまで実家に居るんだ」そんな電話は無かった。もしかしたら紗央里があの家の台所で自分のエプロンを身に付けて素麺を茹でているのかもしれないと思うと身の毛がよだった。
(もう2度とあの家では暮らさない)
吉高との暮らしがほんの数ヶ月の不倫で音を立てて崩れてしまった。世間では浮気は男の甲斐性と堪える女性もいると大智は言った。けれど妻を実家に追い遣り愛人を自宅に招き入れるなど言語道断。この先、子どもを授かり里帰りしようものなら好き放題するに違いなかった。
(紗央里と別れても吉高さんは同じ事を繰り返す、そんな気がする)
明穂は深呼吸をして夜の空気を吸い込んだ。すると仙石家の中が何やら賑やかしい、義父母と大智が言い争っているようにも聞こえた。
(ーーーーえ、まさか!)
直情型の大智の事だ。もしかしたら吉高の不倫の件を口にしたのかもしれないと明穂は耳をそば立てた。それは不要な心配だったが大智はとんでもない事を言い出した。
「なんで東京の事務所を辞めたんだ!」
「そうよ、やっと採用されたんでしょう、勿体ないわ」
「もう辞めた!再就職先も決まった!問題ねぇだろ!」
それはそうだ。いつもの思い付きでUターン再就職したと叱責されてもおかしく無い。
「やりたい事があって帰ったらしいな!」
「チッ、あいつ口が軽いな!」
まさか大智が両親に相談も無く金沢に戻って来るとは思ってもみなかったので明穂はその事を大智の母親に漏らしてしまった。
「大智、やりたい事ってなんなの?」
「まさか失敗して逃げてきたんじゃないだろうな!」
「俺がそんな下手するかよ!」
机を叩く音がして明穂は飛び上がった。「この騒ぎはなんだどうした」と明穂の両親も様子を見に2階に上がって来た。
「どうしたの?」
「なんだかお義父さんとお義母さんが大智と喧嘩してるみたい」
「あらまぁ、珍しいわね」
3人で顔を見合わせて居ると大智は《《例の事》》について言及した。
「結婚してぇ女が居るんだよ!」
「そうなのか」
「遠距離恋愛?でもあなたアメリカに居たんじゃ」
「金沢に居たんだよ!」
「なら紹介しなさい!」
「未だ出来ねぇんだよ!」
「如何して!」
「旦那が居るんだよ!」
「はぁーーーーーーーー!?」
明穂を除く両家の大人たちは驚きの声を挙げた。そこで烈火の如く大智の父親が「不倫か!おまえ、不倫なのか!」と騒ぎ出した。
「そんなんじゃねぇよ、手も握ってねぇ(昔はキスしたけどな)」
「手っ、てっ、てててっつ!」
「親父、落ち着けよ」
「大智、弁護士が他所の奥さんと不倫なんて世間様が知ったら如何するの!」
「だーかーらー不倫じゃねぇから」
「どっ、どこの女だ!」
「心配するなって、近々紹介するから」
「大智!」
階段を上る音がして大智の部屋に明かりが点いた。カーテンが開き大智と田辺一家がご対面である。大智はなにも言わずにVサインをするとカーテンを閉めた。
「な、なんだ」
「大智くん、如何したの」
「さ、さぁ」
大智は着々とその日に向けて準備を始め、明穂は脇に汗をかいた。
「ご馳走さんでした」
「また来てね」
「明日も来るわ」
「あ、そう。お素麺で良い?」
「卵宜しく、細っそくて薄っすいの」
「はいはいはい」
そんな遣り取りが階下から聞こえて来た。ふと笑みが溢れ、それが壁に立て掛けた姿見に映った。明穂の面差しは柔らかな輪郭をしていた。
(大智が居てくれてーーー良かった)
そして当然の事だが吉高から「泊まるのか」「いつまで実家に居るんだ」そんな電話は無かった。もしかしたら紗央里があの家の台所で自分のエプロンを身に付けて素麺を茹でているのかもしれないと思うと身の毛がよだった。
(もう2度とあの家では暮らさない)
吉高との暮らしがほんの数ヶ月の不倫で音を立てて崩れてしまった。世間では浮気は男の甲斐性と堪える女性もいると大智は言った。けれど妻を実家に追い遣り愛人を自宅に招き入れるなど言語道断。この先、子どもを授かり里帰りしようものなら好き放題するに違いなかった。
(紗央里と別れても吉高さんは同じ事を繰り返す、そんな気がする)
明穂は深呼吸をして夜の空気を吸い込んだ。すると仙石家の中が何やら賑やかしい、義父母と大智が言い争っているようにも聞こえた。
(ーーーーえ、まさか!)
直情型の大智の事だ。もしかしたら吉高の不倫の件を口にしたのかもしれないと明穂は耳をそば立てた。それは不要な心配だったが大智はとんでもない事を言い出した。
「なんで東京の事務所を辞めたんだ!」
「そうよ、やっと採用されたんでしょう、勿体ないわ」
「もう辞めた!再就職先も決まった!問題ねぇだろ!」
それはそうだ。いつもの思い付きでUターン再就職したと叱責されてもおかしく無い。
「やりたい事があって帰ったらしいな!」
「チッ、あいつ口が軽いな!」
まさか大智が両親に相談も無く金沢に戻って来るとは思ってもみなかったので明穂はその事を大智の母親に漏らしてしまった。
「大智、やりたい事ってなんなの?」
「まさか失敗して逃げてきたんじゃないだろうな!」
「俺がそんな下手するかよ!」
机を叩く音がして明穂は飛び上がった。「この騒ぎはなんだどうした」と明穂の両親も様子を見に2階に上がって来た。
「どうしたの?」
「なんだかお義父さんとお義母さんが大智と喧嘩してるみたい」
「あらまぁ、珍しいわね」
3人で顔を見合わせて居ると大智は《《例の事》》について言及した。
「結婚してぇ女が居るんだよ!」
「そうなのか」
「遠距離恋愛?でもあなたアメリカに居たんじゃ」
「金沢に居たんだよ!」
「なら紹介しなさい!」
「未だ出来ねぇんだよ!」
「如何して!」
「旦那が居るんだよ!」
「はぁーーーーーーーー!?」
明穂を除く両家の大人たちは驚きの声を挙げた。そこで烈火の如く大智の父親が「不倫か!おまえ、不倫なのか!」と騒ぎ出した。
「そんなんじゃねぇよ、手も握ってねぇ(昔はキスしたけどな)」
「手っ、てっ、てててっつ!」
「親父、落ち着けよ」
「大智、弁護士が他所の奥さんと不倫なんて世間様が知ったら如何するの!」
「だーかーらー不倫じゃねぇから」
「どっ、どこの女だ!」
「心配するなって、近々紹介するから」
「大智!」
階段を上る音がして大智の部屋に明かりが点いた。カーテンが開き大智と田辺一家がご対面である。大智はなにも言わずにVサインをするとカーテンを閉めた。
「な、なんだ」
「大智くん、如何したの」
「さ、さぁ」
大智は着々とその日に向けて準備を始め、明穂は脇に汗をかいた。