あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を。
(ーーーー明穂)

 そんな中、面白くないのは吉高だった。明穂を心配しながらもそれは口先だけで終わっていた。行動力の有る弟の隣で無邪気に笑う明穂の姿が居た堪れなかった。
 
(ーーーークソっ、俺の方が学力は上だ!)

 高等学校3年進路指導で吉高は国公立大学への進学を希望した。片や、謹慎処分を受けていた大智は大学進学は諦め地元の中小企業への就職が決まった。

(絶対、絶対医者になってやる!)

 明穂と結ばれる未来を思い描いていた吉高はそれなりの地位、安定した生活基盤を手に入れるべくで大学医学部で医師免許を取得する為に勉学に励んだ。ところが高等学校に入学した明穂が親公認で大智と交際を始めてしまった。

(なんで、なんで大智が!)

 高等学校卒で中小企業に就職した大智に明穂を掻っ攫われてしまった事で吉高の人生設計は大幅に狂ってしまった。

「おまえじゃ明穂を幸せに出来ない!」
「なんでだよ!」
「手取り18万円で明穂を養えるのか!」
賞与(ボーナス)だって出るさ!」
「おまえの会社の株は急下落、賞与なんて当てになるものか!」

 ある日、些細な口論が発端となり吉高と大智は生まれて初めて殴り合いの喧嘩をした。その数ヶ月後に大智は突拍子のない事を口にした。

「俺、海外に行くわ」
「お金は如何するの!」
「貯金も少しあるし何とかなる」
「ビザは!」
「就労ビザかワーキングホリデーでもなんとかなる」
「なんとかなるって、そんないい加減な!」
「俺は《《吉高さん》》とは違うからな」
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