あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を。
大智が海外に行く事を知った明穂は泣いて(すが)った。然し乍ら大智の決意は変わらず明穂の両手にはSDカードが握らされた。

「SDカード使って」
「こんな物要らない、大智に此処に居て欲しい!」
「こんな物ってこれ結構高かったんだぞ」
「これをどうしろって言うの!」
「また見に戻るから」
「嫌だ!嫌だ!」

 明穂はその腕を掴んで前後に激しく振った。

「SDカードの容量が一杯になったら交換して」
「大智が居なきゃ分からない」
「田辺のおばさんか吉高に確認して貰って」
「大智が良い!」

 明穂の叫びも虚しく大智を乗せたジャンボジェット機は成田空港へと向かった。後を追い掛ける事が出来ない明穂はその背中をデジタルカメラの中に収めた。それ以来大智の消息は途絶えた。ただ《《生きている》》証として時折絵葉書が送られて来た。

「明穂ちゃん、結婚して下さい」
「ーーーえ」
「僕じゃ明穂ちゃんを幸せに出来ないかな」

 吉高は大学医学部を卒業し医師免許を手にした。田辺家と仙石家の間では吉高と大智どちらかの息子と明穂を縁付かせようという話が持ち上がっていた。その事を知っていた吉高は大智不在の折、これ幸いにと明穂に求婚をした。

「え、と」

 明穂の中には大地への淡い恋心が(くすぶ)っていたが、特に断る理由も無くその求婚を受け入れた。

「大切にするよ」
「よろしくお願いします」

 明穂23歳、吉高25歳の事だった。
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