あなたが囁く不倫には、私は慟哭で復讐を。
ぎしっ

「明穂、良いだろ?」

 そんな吉高との夜の営みは決して円滑であるとは言い難かった。明穂は吉高と初めて肌を重ね合わせた瞬間に違和感を感じ、それは結婚して2年経った現在(いま)も慣れる事は無かった。

「よ、吉高さん」
「怖くないよ、今から挿れるからね」
「ーーーーんっ」

 普段とは全く異なる顔付きの吉高は明穂の中へそれを挿入した。息遣いが荒くなり腰の動きが激しくなった。明穂はその行為が1分1秒でも早く終わって欲しいと願った。

「明穂、明穂」

 両膝裏を抱え上げられ深く突かれた明穂は唇を食い縛った。吉高の眉間に皺が寄った。

「吉高さん、着けて!」
「良いじゃないたまには、夫婦なんだし」
「駄目!着けて着けて!」
「明穂」
「着けて!お願い!」

 吉高は渋々コンドームを取り出しそれに被せた。明穂は子どもを授かる事を願う反面、この弱視が遺伝するのではないかとそれが不安だった。明穂は母親に付き添われて病院を受診したが《《遺伝しないとは断言出来ない》》と告知を受けた。依ってセックスには前向きにはなれなかった。

「明穂、いつになったらなにも着けずに出来るんだ」
「それは」
「僕たち夫婦なんだろう?」
「そう、そうだけど」
「もう少し、なんて言えば良いかな、愉しもうよ」

 吉高が紗央里という女性との浮気に走ってしまったのはこのぎこちない性生活が原因なのかもしれない。大凡(おおよそ)の見当は付いたがそれが理由で大手を振って浮気をして良い筈がない。

(愉しむなんて無理、触られるのも嫌)

 明穂は吉高から紗央里との浮気が発覚した後も度々セックスを求められた。

「ごめんなさい、生理なの」
「また?」
「不順なのかも」
「病院に行ってよ」
「うん」

 それは到底受け入れられる行為では無かった。
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