魔法石の密造人2/極限狂乱・犬エルフ・魔女誕生・新しい幸せ

被告☆ミケナ・フロラ(2)vs タタキ(強盗)の張

1
 いくら「監獄行きだ!」と、腐った裁判官たちが喚き散らしたところで、まだ審議は不十分で、正式に投獄できる手続きが整っていない。検察や警察なども全部が腐っているわけではなしに、監獄側だってあからさまに「魔族ギャングの一味」扱いされるのは嫌だっただろう。
 再度の公判の日付が決められる。
 しかし、「逃亡の恐れあり」と告発した側(陥れ目的の誣告に近いが)がごねた。ミケナ・フロラを野放しにすれば、それによってさらに反魔族のトラップが増設されたり、市井の世論が厳しく強硬論に傾いていく恐れがあるから。シンパのネットワークが手を回して「勾留を続行」することに成功。
 警察の反魔族寄りのグループの監視下(保護下)からも引き離し、影響下にある拘置施設に連れて行かれることにまでなってしまった。トマス巡査は私のことで大失敗した苦い経験から他の巡査や警部たちと抵抗したが、謎の政治圧力や警察内部のスパイ工作員たちによって善意と努力は無に帰したらしい。そこで、ミケナ・フロラの送られた拘置施設の外で順番に張り込みをし、異変があり次第に突入する手はず(勝手に「どこかに移送されて行方不明」という事態への予防策でもある)。
 ところがミケナ・フロラが入れられた初日の夕方に、張り込んで見張っていた刑事が魔族ギャング(の人間構成員のならず者)にめった刺しされてしまった。一緒にいたトマス巡査も、棍棒で二人三人でめった打ちにされて、全身打撲であちこち骨折していたらしい。
 普通は警官には恐れて直接には手出ししないものなのだが、今では政治や司法関係まで浸透や汚染が進んでいて(買収や脅迫も横行している)、やりたい放題。この犯人たち(複数人)は「精神科通院歴があるから」「薬物による錯乱」「証拠不十分」などなどという理由で保釈されてしまい(治療中のトマス巡査は意識曖昧で証言すら困難だった)、すぐに町を立ち去って行方をくらませてしまったそうだ。
 警察は必ずしも腐っていたり戦闘力で劣っているわけでもないのだが、法律システムの建前上に逮捕や裁判という形式手続きがある。そのために凶悪犯罪の現行犯でもない限りは、いかに悪い奴でもいきなり殺してしまうわけにはいかず、後手に回りがちなのだ(家族への脅迫や各種の陥れ工作も日常的に行われている)。


2
 新しい拘置施設で、ミケナ・フロラと相部屋になったのは、「タタキ(押し込み強盗)の張」(通名・張元)と呼ばれる常習の兇悪犯だった。深淵エルフの混血で、目が細く釣り上がって顎のエラが張りだしているため「張」とか「張元」と呼ばれる説があるのだが、戸籍が改ざんされていたり、スパイ工作員が法的身分の乗っ取り(背乗り)した説もあって「どこの誰かすらわからない」のが実情であるらしい。
 ともあれ通常は女性の初犯・未決囚が、最悪のプロ犯罪者の男性と相部屋ということ自体があり得ない差配なのだけれど、故意に「事故」が起きるように仕組まれたとしか思われない。
 しかし「魔術封じの首輪・足輪」まで厳重に着けられていて、為す術のない状態にされていたあたりに悪意があり過ぎる。

「へへへ、姉ちゃん、仲良くしようや!」

「ん? ここって動物園だっけぇ?」

 ミケナ・フロラは、さっそく襲いかかろうとする張の前で、自分から襟のボタンを外して、服を脱ぎ始めた。

「慌てないでよ、脱ぐからぁ」

「なんだ、姉ちゃん素直じゃねえか」

「やぁん、服が破けたらぁ嫌だもん」

 やがて、ミケナ・フロラの輝くばかりに美しい裸身が現れ、その麗しい光景が最後に見た景色となった。張は爆熱に包まれて消し飛び、飛び散って一巻の終わりになった。
 ミケナ・フロラの身体には(トラの)「魔術トラップ爆弾」が仕掛けられていたからだ。これは任意で発動できる使い捨ての隠し武器のようなもので、レト君や姉のルパや他のメンバーに与えられて装備されているのと同じもの。外付けオプションの装備であるため、いくらミケナ・フロラ本人に魔法封じしても無駄である。
 起爆一発で張を殺して、ついでに首輪・足輪も破壊して、魔法能力を取り戻す。通常の彼女ならば、そんな拘置施設を抜け出して逃げるなど容易いことなのだった。


3
 その後。返り討ちで惨殺された兇悪犯の血と肉がこびりついた勾留部屋は、わざと掃除せずに、魔族ギャングや悪質犯罪者の専用に使われることになったそうな。
 今回の一連の騒ぎで(加担したことから)燻りだされた魔族ギャングたちは、時宜を待ち構えていた警察(と軍)から逮捕祭りや血祭りにされ、町の治安や裏事情も回復につながった。
 なお、ミケナ・フロラが脱走した夜更けに、重体のトマス巡査のところに謎の看護婦が訪れたらしい。翌朝には軽症にまで回復しており、トマス巡査は「母乳を飲ませて添い寝して回復させてくれた」などと、デレデレした表情で語り、見舞いにきた友人のドワーフの女軍曹から「お前、あとで〆てやる」と宣告されたとか(後の妻である)。
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