魔法石の密造人2/極限狂乱・犬エルフ・魔女誕生・新しい幸せ

被告☆ミケナ・フロラ(3)ドワーフ女軍曹サクラ・ジャロスタイン

1
 ドワーフ女軍曹サクラ・ジャロスタイン。男女を問わず猛者と知られる、ドワーフ戦士の家系に生まれた彼女は、屈強な肉体と精神の持ち主だ。武勇伝も数知れず、男女の同僚から「野牛のごとき」勇士と見做され、後輩達からは「姐御」と頼られ、子供たちからは軍曹姉ちゃんと慕われる。
 そんな彼女にも、やっぱり妙齢にしてお年頃の悩みがあった。

「ミケナさんみたいに、あんまり男の人に受けないんだよねえ。ほら、前にポカやらかして駆けずってたトマス巡査っているでしょ? あいつって幼なじみなのよ」

 褐色の肌の、健康的マッチョで運動選手のような彼女は、同性から「硬派で男前なプリンス」扱いされがち。そして男たちからは「女として見れない」「顔立ちは普通だけど何か漠然と臭そう」という評価もあった。
 サクラがついノロケが出てしまうのは、親しい間柄だからだ。年上のエルフのミケナとは幼少の頃から知っているのだが、今では従妹のカエデがお世話になっている家族ぐるみの付き合いだ。

「あ、あんたも。あんまりあいつのこと、悪く思わないでやってね。あれでも、あんたを保護して事情を聴きたかっただけなんだから」

 作業場に差し入れの焼き鳥を持ってきてくれたついでの雑談で、私(アネット)にも会話の水を向ける。実は彼女も、あの忌まわしいギャングの奴隷虐待オークションに踏み入って、救出劇に加勢してくれた一人なのだった。
 私は苦笑して頷いた。
 たしかに、トマス巡査が警察署の勾留部屋に私を置いて席を外した隙に、警察内部のスパイによって私は拉致されて地獄を見た。
 そのことで無用心で配慮が足りなかったのは事実だとしても、緊急出動した理由はハンスの救出だ。もしもトマス巡査が駆けつけていなかったならば、おそらく最悪ハンスは殺されていたかもしれない。しかも拉致された私を助け出すために大慌てで走り回ってくれたそうだから、あまり憎む気にはなれない。

「サクラさんは、トマスさんが好きなんですか?」

「うーん、あいつって真面目だし紳士なところあるんだけど、ちょっと融通きかなくって生き方ヘタなとこあるのよ。そういうのって、ドワーフ気質っていうのかなあ。鍛冶屋だった親父とイメージが被っちゃってさ」

 サクラの父親は本職は鍛冶屋だったのだが、自分が作った武器を巧みに使いこなす剛の者でもあったのだそうだ。魔族と夜盗の来襲した際に、村の無力な人間たちや、エルフ・ドワーフの非戦闘員たちを守るために少人数で勇戦して戦死した。
 彼女は立派な父をいたく尊敬しており、仇をとるためと憧れの気持ちから、防衛軍の戦士団に入ったのだという。魔族に対する容赦のなさは、そういう理由からでもある。


2
 吊し上げられた魔族を、メリケンサックでボコボコに八つ裂きにする。
 裁判所のすぐ前で。
 ミケナ・フロラの裁判が行われている最中で「あんまり舐めてると次は貴様らだぞ」と。願い虚しくもミケナは立場が良くなかった。
 そこで、トマス巡査にも計って、順番に見張りすることにしたのだが、あのザマに終わった。意気消沈しつつも、替わりにあの晩に拘置施設の外で見張っていたが、当のミケナ・フロラは気づかないうちに脱走していた。
 翌朝に、トマス巡査を見舞いに行ったら、打って変わって軽症にまで回復しており、しかも腑抜けて好色なニヤニヤ笑いしてやがる。

「アンタって奴は!」

 ミケナにも一言言いたいところだったが、トマスが回復させて貰ったのだから強く文句も言えない(あまり力になれなかったことでも申し訳なく感じている)。
 だからストレッチに、レスリング技。
 これも彼女なりの愛だった。
 トマス巡査も恍惚としていたから、まんざらでもなかったらしい。彼も好きだった?
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