どーる
アタシの売りは、長い黒髪、色白、切れ長の大きな茶色い瞳。化粧をしなくてもほんのり唇は赤く、少し上気しただけで紅を指したような肌になり、とても便利。小さく欠伸すれば小鹿のような目にはすぐ涙が溢れ、これも便利な武器の一つ。感じやすい身体、最終兵器。

母の言うような苦労をしたってしょうがないのだ。雨が降ったら地下鉄代わりに呼べるメルセデス、とか、唇フェチな故に食事をご馳走し続けるアルファロメオ、とかイッパイいるんだから。だからって何か求められる訳でもなく、眺められているだけ。気持ちの悪いタイプでない限り 宝物扱いされるのって悪くないでしょ?高揚を隠して、冷静さを装うのを観察するのも残酷で楽しいよ。
ポルシェカレラ911はどうなのか。瀬里奈でしゃぶしゃぶを食べて、プリンスのプールに行く。部屋は着替えるだけ、泳ぐのは私。カレラはどこからか見ているのだろうか。それとも会社に電話しているのだろうか。ここのプールは見られ過ぎていて、ナンパされないから好き。お腹を空かせて夜は浜でステーキ。深夜の桂由美サロンが眩しい。カレラはその後「どうする」と聞く。一人でプリンスに泊まるのも帰るのも深夜の買い物に出掛けるのも、麻布のキャンティでお茶するのも私の決めること。麻布からプリンスまで歩くのも好き。カレラのこと好きよ。でも一人にさせて
西麻布には役者の傍らバーを経営する無口なバイクがいる。何も聞かず、言わずソルティードック飲んでカルアミルク飲んで。帰りにそっと背後からコートを掛けてくれる指の感触がたまらないんですけど?
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