🕊 平和への願い 🕊 ~新編集版~ 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』にリスペクトを込めて
 どうしたらいいのかと考えても答えは見つからなかったが、考えずにはいられなかった。
 これはロシア人の尊厳にかかわることなのだ。
 ロシア人=殺人者、ロシア人=野蛮、ロシア人=非道という間違ったイメージを払拭しないと大変なことになるのだ。

 しかし、為す術はなかった。
 東京で反戦デモに参加したことはあったが、それで何かが変わるわけではない。
 せめてロシア大使館に僅かでも影響を与えられればいいが、その可能性はゼロと言ってもいい。
 プーチンにも軍部にも伝えられることはないのだ。
 無駄とは思わないし大事なことだとは思うが、なんの変化も与えられない無力を痛感せざるを得ない。

 では、どうする?
 問いかけても、首を振ることしかできなかった。
 日本にいて、日本人の夫がいて、何不自由ない平和な暮らしをしているロシア人ができることは限られているのだ。

 でも……、
 西の空を見つめながら7,500キロ先の祖国を想った。
 スラブ三原色の国旗がたなびく祖国を想った。
「白は高貴と素直、青は名誉と純血性、赤は愛と勇気。それに、白はベラルーシ人、青がウクライナ人、赤がロシア人。なのに……」
 (こぼ)れた涙が頬を伝わって口の端で止まった。舐めると、血の味がしたような気がした。
「わたしはロシア人……」
 その呟きは飛び立つこともなく地に落ちた。

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