深瀬くんが甘すぎる
しばらくそうやって話していたところで、がらら、っと勢いよく教室の引き戸が明けられる音がした。
そこそこ年季の入った校舎の扉が、その勢いに悲鳴を上げるみたいに嫌な音を立てて思わず顔をしかめる。
みんなが反射的に扉のほうに顔を向けるのが分かったので、わたしも何となくその方向を眺めた。
教室の扉から現れたのは、一人の男子生徒。
すらりと伸びた手足に、私より頭一つ分は高そうな身長。
男子にしては白い肌と、窓から吹き込んだ風で揺れるこげ茶色のさらさらの髪。
すっと通った鼻筋、きれいなアーモンド形の目、形のいい薄い唇。
その見た目は女子たちの黄色い歓声を浴びてもおかしくないくらい整っているけど、彼の姿を見たクラスメートたちは示し合わせたみたいに押し黙った。
それは私も例外じゃなくて、彼が誰かを認識して息をのむ。
――深瀬 伊織くん。
去年クラスが違った私でさえその名前と噂を知っているような、この高校の有名人。