天才と呼ばれた彼女は無理やり入れられた後宮で怠惰に過ごしたい!②

三つの玉を開くとき2

 使者がまたやってきた。会談を開きたいという。オレは了承する。互いの中間点ほどに設けられた場所に天幕を立てて、行うことにした。

 黒ひげの熊のような北方の長がどっかりと椅子に座る。巨体で、目をギラギラさせて威圧してくる。

「こちらの条件を飲んでくれるのならば、良い提案がある」

「とりあえず話を聞こう」

 オレは負けないように、余裕ある笑みを浮かべてみせる。

「ワシの娘を人質に嫁にやろう」

 はぁ!?いらないぞっ!と言おうとしたが、冷静になれ。オレ!と言葉を飲み込む。

 つまり相手は娘を渡しても良いと思うほど、切羽詰まってるのか?

 とりあえずリアンの最後の玉を割る。

『あちらから人質を渡すと言われるでしょう。でも、きっとウィルバートの性格的に受けないはず。ならば儀式を行うべし』

 細かい儀式の手順が記されている。ここまで予想していたのか?しかし……なるほどね。リアンはそういう手を使うか。面白い。

「どうした?」

「……セオドア!葡萄酒を持て!」

 言われたセオドアが慌てて取りに行く。突然のことに驚き、ギョロリとした目を見開く長。

「申し訳ないが、娘は断る。その代わり兄弟である儀式を行いたい」

「なっ!……こちらの風習を知ってるのか?まさか……そんな……」

 動揺する北方の長。

「争うばかりが解決策だとは思わない。どうだろう?このへんで手を打たないか?税はその年によって変動させよう。不作の年は減らそう。統治はより良くするために、多少の口は出させてもらうが、基本的にはそなたらの部族に任せたいと思っている」

「あ、ありがたい申し出だと思う……この北方はどうしても気候が悪く、不作であれば冬を乗り越えられんのです。今年の冬も厳しく……よく理解してくれて……」

 言葉に詰まりだす長。でかい熊のような男が、まさか泣くんじゃないのかと思って、オレと他の騎士たちが見守る中、セオドアが帰ってきた。

「持ってきました」

 葡萄酒が入ったグラスを渡す。カチリと音をさせて乾杯し、儀式の言葉を言う。

『兄弟のために尽くすことを誓う』

 ありがたいと何度も言いながら、長は帰っていった。セオドア達が驚く。

「この北方の長がきちんと話を聞き、あんな顔をしたのは初めてみました!」

「陛下、あの儀式はなんだったんですか?」

 今まで、話し合いにもならなかった。長が心を開いたのは……リアンが儀式をすると良いと提案した部族の風習のおかげだ。

「この地方では、親しい者を兄弟と呼ぶ。なにか大事な約束をするときは葡萄酒を飲みながらかわすんだ。蛮族と思って、今まで話し合いをしてきたが、大事な風習をこちらが理解してくれたことで、心の歩み寄りがあったと思ってくれたんだろう」

 騎士たちが感嘆のため息を吐く。血を一適も流さずに終えれたことの意味は大きい。

 セオドアは何が起きたか気づいていた。リアンの三つ玉をオレが開いていたからだ。驚き、リアン様はいったい何者なんですか?と呟いていた。

 王宮に帰ると、おかえりなさーい!と明るく出迎えてくれたリアン。……寝ていたらしく、頬に手の跡がついていることは言わないでおこう。
< 2 / 16 >

この作品をシェア

pagetop