天才と呼ばれた彼女は無理やり入れられた後宮で怠惰に過ごしたい!②

愛しい人へのプレゼント

 キャアアアア!アナベルの叫び声を私はバッと手で塞いだ。

「静かに!騒いだら大事になるわ」

「で、でもっ!お嬢様!」

 廊下を歩いていたら、真正面に毒ヘビがうねっていた。クスクスと笑い声が廊下の柱から聞こえた。

「アナベル、箒ちょうだい」

「えっ……まさか……」

 早く!と私に急かされて、持ってくるアナベル。私は構えた。下段の構え!

「毒ヘビさん!ごめんね!」

 シュッと振り払って、笑い声のした方向へ飛ばした、キャアアアアと悲鳴があがる。

「さっ、行きましょう」

 裏山を私塾の男の子たちと駆け回っていた私を馬鹿にしないでもらいたい。アナベルはポカンと口を開けていた。

 またある日は頭の上にザバッと水が降ってきた。

「アナベル!危なーーーいっ!」

 私は咄嗟に防御の魔法を使い、水をガードした。

「今のはお嬢様が狙われてましたよ?」

「あら?そうだった?」

 いいんですか?とアナベルは心配する。嫌がらせはエスカレートしてきている。しかし……。

「怠惰に過ごしたいのに、一つ一つ関わっていたら、めんどくさいわ。それに、こんなことウィルバートにバレたら大変よ」

 そうかもしれませんけど……と、アナベルは口ごもった。事を大きくして、激怒したウィルバートに剣を振り回されたくない。あの事件はトラウマだわ。
 
 しかし、そんなことが続いた時だった。

 ドサッ……箱がまた置かれた。何箱目だろう?ウィルバートが得意気に腕を組んでいる。

「ご苦労だったな」

 礼を言われて、とんでもございません!と下がっていく人達。

「これはどういうことなの?」

「あれっ?リアン、なんか怒ってないか?」

「呆れてるのよっ!私の怠惰に過ごすスペースがなくなるでしょ!?」

「どこでも好きな部屋を使えばいいし、この物を置く専用の部屋を作ってもいいけど?」

 この王城の持ち主はサラリと言ってのける。

「なぜウィルバートが苛立ってるか予想つくわよ。でも、やり過ぎよ!贅沢すぎるわ!」
 
「リアンへの侮辱はオレへの侮辱だっ!」

 この言い合いが始まる約12時間ほど前に起きた出来事があった。

「クラーク男爵家?聞いたことがありませんわ。どこの家なのかしら?」

「陛下は何故、こんな地味でダサい田舎じみた……あら、ごめんなさいね。嘘がつけない性格ですの」

 夜会で、地位の高い貴族に嫌味を言われることが増えた。私の実家、男爵家は地位が低い。うちみたいに商売で貴族になった家は、お金で爵位を買ったのかと揶揄されることもしばしば。

 さらに陛下が、後宮に《《一人だけ》》残して愛でているという噂が広まり、私に興味や嫉妬心を持つ人が出てきた。

 そんなわけで、嫌がらせや嫌味を受ける日々である。

 夜会で私が嫌なことを言われていることに、とうとう気づいてしまったウィルバートが誰にも文句言わせない!と私を着飾り、寵愛していることを全面に出す作戦に出た。しかし愛が重すぎる。私は部屋にあふれんばかりの数が置かれているドレスや装飾品などを見回した。

「ウィルバート、心配しすぎよ。私は平気なのよ」

「リアン!だけどオレは君を守っ……」

 私は人差し指をウィルバートの唇に当てる。ピタッと彼は言葉を止めた。

「大丈夫よ。誰に喧嘩売ったのか、ちゃーーんと教えてあげるわ。このくらいのこと平和的に解決できなくちゃね。これは私の戦いよ!」

 私達を見守っていたアナベルがハァ……と嘆息した。

「お嬢様の反撃スイッチをいれてしまいましたね?」

「えっ?オレのせい!?」

「陛下が心配されるから、お嬢様は解決しようとしてます。めんどくさいからと怠惰にやり過ごしていたお嬢様が一番、平和モードなんですよ。起こしてしまいましたね」

 アナベル、人を危険な獣のように言うのはやめてよと言おうとしたが、まさに王家や貴族たちというものに食らいつこうとする私なのたから、あながち間違いでもないかもしれないけれど。

 その数日後、再び夜会に私は出席した。

「陛下の目にとまるのが、わかりますわ。お美しい方ですわ」

「今度、ぜひ、我が家のパーティーにもいらしてくたさい!」

 手の平を返したように、親しげに話しかけてきた人達が大勢いた。ウィルバートが、どういう手を使ったんだ?と興味津々だった。

 陛下、ダンスでもしましょうか?と、私はホールの真ん中へウィルバートを連れ出す。クルッと回り、体を寄せ合う時にヒソヒソと話す。

「あなたの叔母上が首謀者だったわ。地位の低い貴族の血を入れたくなかったみたいね。ずっと視線を感じていたから、そうじゃないかしら?と目星はついていたわ」

 シャンデリアが天井からぶら下がり、明かりに反射し、キラキラと輝く。音楽は盛り上がっていく。大理石の床を軽やかに踊り続ける。

「なるほどな。母が平民出身で、気に入らないからと、幼いオレにも容赦なく嫌がらせしてきた人だし、納得だ。でもどんな手を使った?」

「それは……ヒ・ミ・ツよ」

 ウィルバートは長い付き合いのため、ある程度、どんな手を使ったのか、見抜いているようで、苦笑した。

「だいたいは予想できるから、もう聞かないでおくよ。でもプレゼントは受け取ってほしい。せっかく用意したんだからね。愛しい人へのプレゼントは選ぶのが楽しい。どんな喜ぶ顔を見れるかな?とか身につけたリアンの美しい姿はこんな感じだろうか?と妄想するのが、また良いんだよなー」

「………い、愛しい!?も、妄想っ?」

 ウィルバートの言葉に赤面し、不覚にも動揺を隠せなかった私に、彼は本心だ!とニコッと明るく笑ってから、フッと真面目な顔になった。

「だけど、本当に危険な時は無理しないで、オレに守らせてほしい。リアン、それだけは約束してほしい」

「わかったわ。ありがとうウィルバート」

 私はプレゼントや寵愛を与えられるだけでなく、私の愛しい人を守るために立ち向かい、強くありたいと思う。ずっとあなたの傍にいると決めたのだから。
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