天才と呼ばれた彼女は無理やり入れられた後宮で怠惰に過ごしたい!②

帰還してきた男

 ドスドスと重い足音、鎧のガシャガシャと言う音、蛮族平定から帰ってきた男がいた。

「ガルシア将軍が帰還しました!」

 慌ただしく走ってきた衛兵がそう告げると同時に、玉座の間に現れ、乱れた黒髪、顔に傷のある巨漢は不敵な笑みで礼もとらずに、玉座に座るオレの前に立って、見下ろす。

「陛下、只今、帰ってきました。……知らないうちにご結婚おめでとうございます」

 嫌味ともとれる言い方だと、オレは肩をすくめる。

「ご苦労だった。思ったより長かったな」

「俺にどんな女なのか相談もなく決められたようで、少々気分が悪いんですがね?」

「別に将軍の許可はいらないだろう?」

 何言ってるんだ?とオレは冷ややかに返す。いつ終わるかわからない戦を待っていて、リアンの気持ちが変わったら、どうする気だよ?

「兄のように慕ってくれていると思っていたので、寂しい限りです」

 ……嘘つけとオレは悪態をつきたくなる。父王の時に腐敗したやつらを粛清したときに、こいつもついでに葬りたかったが、ふてぶてしい態度以外は何も出てこなかったから仕方ない。

「リアンに……王妃に近寄るなよ」

 オレは冷たくそう言い放つ。ガルシア将軍が目を丸くした。

「陛下がそんなに女にご執心になるとは!そこまで良い女なら、余計に拝んでみたいな。なんでも他の者からの話では、陛下は王妃の前では人が変わるとか?まさか腑抜けになってないですよね?」

「セオドア!」

 オレの横にいた騎士のセオドアがハイと返事をした。

「絶対にリアンに近寄らせるな!」

「承知いたしました」

 スッと影のようにセオドアは去っていき、リアンの護衛につく。

「ハハッ!セオドアで俺に勝てるかな?」

 嘲るように笑う将軍。

「後宮にはオレの許可なく他の男は入れない。無理に入るなら法で裁くぞ。法以外にも……方法はいくらでもあるけどな。それを知りたいのなら、かまわないけど?」

 むしろ遠慮なく、裁いて、倒して、こいつを将軍から引きずり降ろしたいな。不敬すぎる将軍にオレはウンザリしていた。誰よりも強いが、性格に難があり、Sっ気要素が強すぎて扱いにくい。

「さすがに入れないのはわかっていますよ。しかし冷たいな。紹介もしてくれないなんて……」

「ガルシア将軍、遠方での戦、疲れただろう?ゆっくりと休め」

「本当に可愛げが無くなってしまって、陛下はつまらない」  

 捨て台詞を吐いて、フンッと鼻息荒く背中を見せて去って行く。

 はあ……とオレは嘆息した。将軍とは仲が悪いわけではない。ただ、無駄に威嚇をしてくるので、疲れる。

 幼い頃から、剣や体術を教えてくれたのは彼だ。とてつもなく厳しい訓練だったが……あれがあって、今のオレの強さがあるとも言える。殺されるかと思うくらいだったし、殺気が本物であった時もある。あの男は要注意だと未だにオレは警戒している。

 リアンには絶対に近寄らせないようにしよう。危険な男すぎるのだ。
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