鈴の願いが鳴るころに誓いを

揺れるスカートと気持ち

僕が先生に頼まれた資料を2年生の階に運ぶのを手伝っていたとき
リンッと音がして振り向くと近くに涼乃さんがいて僕はそこへ行こうと資料を急いで先生に言われた教室に運ぼうとしたとき聞こえてきた

「近江さんって耳聞こえないの演技らしいよ」

「近江さん?ああ、あの見た目だからさ男子たぶらかしてるんでしょどうせ」

「この前、男といるの見たよ」

「近江ってかわいいよな。耳聞こえないんだろ?助けるふりして近づこうぜ」

「聞こえてないって便利だな」

その空間は彼女が生きるのには息苦しい会話ばかりでまるで彼女に居場所はないと言っているようだった
彼女は耳が聞こえなくても明るくて元気で楽しく過ごしていると思っていた
僕は知ろうとしなかったんだ
大切な人のことを、もっとちゃんと。

そう考えている間にも聞きたくない会話と脳を刺激する耳鳴りのような音に頭が割れそうなくらい痛くてそこで僕の意識は途絶えた
最後に聞こえた音は心地よい鈴の音だった気がする

目を開けるとそこは保健室?まだ頭がガンガンしながら考えた
あの最悪な空間で誰が僕に気づいてくれたんだ
するとカーテンが開いて養護の先生が入ってきた
「もう大丈夫?」
僕は小さく頷いた
そして先生は続けた
「近江さんがね顔の血相変えて私のところまで走ってきてくれてあなたのこと教えてくれたの。」

鈴の音…
やっぱり涼乃さんだった
今まで誰の目に映ることなく生活してきた僕を彼女は僕だけをその誰よりも綺麗な瞳に映して僕を見つけてくれた


僕は保健室を後にしてあのときの音楽準備室に走った
涼乃さんがいる気がした
扉の前に立って深呼吸してドアノブに手をかける
静かに扉を開けるとそこにはあの日と同じように黒い髪を揺らしながら僕だけの瞳でこちらを見ていた
そしてノートに急いで"僕を見つけてくれてありがとう"と書いた
彼女は"私のことをここで見つけてくれてありがとう"と書いた

"何度だって見つけるよ1番に"そう書いて見せると彼女はなにかを言おうとし俯いた
言いにくいのかもしれない
だから僕は自分の話しをした
"今から信じられないかもしれないけど僕の話しをしてもいい?"

"なんでも信じるよ晴のことは"

その言葉ににこりと笑ってから僕はノートに書き始めた
あの日のことからゆっくり丁寧に。

"僕がまだ小学5年生だったあの日僕には大切な親友と呼べる友達がいた。
彼はスポーツもできて勉強もできて誰からも好かれてるクラスの人気者だった
その中でも僕が1番仲が良かった
今思えば彼は優しいから1人の僕を放っておかなかったのかもしれない
1人で本を読んでいた僕に声をかけてくれてそれから何をするのも一緒だった
もちろんそれを見ているクラスの人たちからの彼への反応はすごくよかった
1人の子にも声をかける優しい男子。
僕も彼が大好きで信じていた
でも彼は違ったんだ
僕なんかよりずっと頭が回ったから最初から僕を利用できるものとしか思ってなかった
それを知ってしまったのは野外活動の話しが出始めたころ
僕はもちろん彼と一緒にグループを組む予定だった
その日の休み時間に廊下を歩いていると彼の姿を見つけて近づこうとしたとき聞こえてしまったんだよ
「お前またあのぼっちとグループ組むの?」
「いやーあいつバカだから俺が優しいやつとしか思ってないしそろそろめんどくさいんだよね。そりゃみんなからの評価は稼げるけどね、僕が可哀想な子になってから仲良くするのをやめる予定だよせっかくの野外活動だしね」
それをただ呆然と見ていた
頭が痛くて泣きそうだった
すると彼はこっちを見てにやっと笑って教室は走って行った
それを追いかけるようにゆっくり教室へ戻るともう僕の居場所はなくなっていた
彼がみんなに僕が彼の立場を利用して脅されていてずっと一緒にいたと全くの嘘をついた
僕の言葉はもちろん誰も信じれてくれなかった
結局、野外活動は誰もグループに入れてくれなくて噂は広がって、いや彼が広めたのかもしれない
それで体調不良ってことにして休んだ
そのときから僕はみんなの本当に思っていることや音が聞こえるんだ。
わかってしまうから誰とも関わってこなかった
踏み込めばまた傷つくのが怖かった
弱いから僕は
1度の出来事でくよくよまだしてるんだ"

涼乃さんは最後までずっとうんうんと首を縦に振りながら話しを聞いてくれた

そして話終わるとノートに"話してくれてありがとう晴はもう1人じゃないよ。誰も信じなくても私が全部、絶対に信じるから。弱くなんかない"
すごく心強い言葉でそれが心地よくて
"晴がどうして人を避けてるのか勝手に心配してた
ごめん"

涼乃さんは自分も絶対辛いはずなのに僕のことを心配してくれていたんだ
僕は涼乃さんの手を取ってありがとうと言った
涼乃さんはにこっと微笑んでから僕の手を握って
『しゅじゅつするの
 みみの
 がいこくで
 せいこうするかは、わからない』

つたないけれど少しずつ涼乃さんは自分の声で伝えてから涙を流した
その声はやっぱり鈴みたいにすぐ消えてしまいそうででも胸に響く綺麗な声で今まで我慢していた分も全て出るようにずっとこのまま止まらないんじゃないかと思うくらい泣いていた。
僕はそのあいだずっと頷きながら背中をさすっていた
そして外が少し暗くなってきたころに涼乃さんは言った
『こわい』
そしてノートに書き始めた
"晴の声を聞いてみたいけど失敗したらもう聞こえない"と教えてくれた

"絶対成功するよ涼乃さんは今まで頑張ったからきっと神様が見てくれてるから僕が保証する"
絶対なんて無責任なことを言ってしまったけど涼乃さんは絶対成功すると僕が信じてるから
"涼乃さんが心配しないように友達も作るから自分のことだけ考えていいんですよ"

そして学年が上がると同時に涼乃さんは学校へ来なくなった
音楽準備室にもあの神社にも
そして僕はお祈りした
涼乃さんの手術がうまくいきますように。
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