真夜中のシャンプー屋
「いらっしゃいませー!!」

ドキドキ。来てしまった。なんかキラキラしてる。
ま、眩しい。

「レオちゃん、また来てくれたのー?」

茶髪で長髪の男性が近づいてくる。
先輩の顔を見る。
小さい声で、ここでは偽名使ってるからと囁く。

「お友達?さすがだね。かわいい子にはかわいい友達だ」
「またー」

先輩、嬉しそう。こんなシナを作る先輩を見たことがない。
女というか雌というか。
職場ではわからないなぁ。

「カエデちゃん、彼でいいかな。翔って言うんだ」
「え、あ、はい!」

なんでもいいとは言えない。ていうか、チェンジとも言えない。
本名にしちゃったけど、まあいいか、一回だけだ。

「よろしくでーす」

にこっと笑顔を向ける翔とかいう男性。
彼も長髪茶髪。ウルフヘア?ていうの?
髪がガチガチだ。シャンプー大変そうだなぁ。

音楽がうるさくて声が聞こえない。
先輩は指名のホストとくっついて話している。

「カエデちゃん、こういうとこ初めて?」
「あ、はい。社会勉強で...!」

自然に声が大きくなる。

「社会勉強!イイね!色んな社会があるよねー!」

えへへと笑うと、急に音楽が変わった。

「ドンペリ入りましたー!」

店の中央にスポットライトが当たり、ワインを運ぶホストが躍る。
ハイハイハイハイ!と、周りの手拍子。
体育会系の部活の様だ。一気!一気!

どんちゃん騒ぎが終わると、少し静かな音楽に切り替わった。

「カエデちゃんも会社員なの?」
「そうです。えっと、...レオさんの後輩です」
「いいなぁ。俺、堅い職業の人、好き」
「堅いですかね?」
「俺からすると堅いよぉ。うちの家族なら尊敬される」
「尊敬?」
「俺の家、みーんな、ブラブラしてるからさ!俺もだけど」
「ああ、なるほど」
「かー!納得された!」
「あ、いや、そういうつもりじゃ」
「うそうそ。でも、俺、仕事は真面目よー。何か飲まれますですか」
「敬語変だし!それ真面目と違うし!」
「おお、カエデちゃん、突っ込みうまいねー」

あれ、ちょっと楽しいカモ?
正直、女らしさとは無縁のワタクシ。
ブスってわけじゃないけど、ちやほやなんてされたことはない。
気付いたら28歳。すでに若いとは言われない年齢。

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