真夜中のシャンプー屋

第3話 地主トオル

よる年波には勝てんとは、このことか。
俺もそろそろ老いぼれ呼ばわりかもなぁ。

こないだドラマで40代後半が初老と呼ばれていた。
まだ働き盛りじゃないか。人生百年と言っておいて、一体どういうことなんだか。

「トオルさん、またね」
「おう、またな」

白々しく別れるホテル街の真夜中。
地主業・宇田川トオルは一人で歩く。

「また」は…ないだろうな、あの様子じゃ。
女もプライドがあるってもんだ。
しかし自分から誘っておいて情けない。
飲みすぎた、なんて言い訳、何年ぶりだ。
そもそも、こういう事も久方ぶりだが。

帰っても一人か。
泊まるつもりだったか、そんな雰囲気じゃなかった。
彼女、いつからペットを飼いだしたんだ?

飲み直そうにも気分じゃない。
寒さが身にしみる。
そう言えば風呂に入ったが髪を洗ってないな。
帰って髪のためだけに風呂に入るのか。
それもなんだか、面倒だ。

…シャンプー屋?
なんだここ?
この辺は庭みたいなもんだが、気づかなかった。いや、この数年はこの道は通ってないか。

500円。安いな。
中に従業員らしき女性が一人。
危なくないんだろうか。こんな繁華街で。
ああ、そのためのガラス張りか。
ある意味、この場所なら「安全」かもな。

気分転換に入ってみるか。

カラン

「いらっしゃいませー」
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