真夜中のシャンプー屋
長い黒髪に白い肌、金色の瞳。
色んな女を見てきたが、なんだろうな、この感じ。
見透かされるような、視線。

「シャンプーでよろしいですか?」

しまったな、帰りたい。

「あ、えーと、いくら?」
「500円です」
「安いね。大丈夫?」

何が大丈夫なのか。
これではクレーマーだな。

「大丈夫ですよー」

俺の言葉の深い意味を汲み取らなかったかのように、無機質な返事。まあいいか。シャンプーなんてすぐ終わるだろう。

「じゃ、頼みます」

シャンプー椅子に上向きに座る。美容室形式だな。いつも床屋だから不思議な感じだ。近頃は男もメイクするからさぁって、床屋の主人が愚痴ってたな。

「シャワーかけますねー」

髪が丁寧に濡らされていく。最近、てっぺんがヤバいんだよな。このオヤジ、剥げてるとか思われないだろうか。うまく隠してるつもりなんだが。

女性は淡々と作業をしていく。一定のリズムで揉まれるのが気持ちいい。俺の自意識など段々とどうでもよくなってくる。へぇ、ヘッドマッサージってこんな感じなのか。未経験だったな。

「ブロー、されますか?追加料金ですけど。500円です」
「お願いします」

濡れたままではてっぺんが、な。
しかし、頭がずいぶん楽になった気がする。頭痛に気づいてなかった。ハーブの香りも効いてるのかもしれない。

これは良く眠れそうだ。
早く帰って床につこう。
心の通ってなさそうな女性だが、気持ちいい悪いは関係ないんだな。

「シャンプーとブロー以外のサービスはないの?」
「ないですー」
「トリートメントを入れるとか。ヘッドマッサージも追加料金にすれば」
「面倒なんでー」
「あ、そう」

やはり、苦手かもしれない。

「ありがとうございましたー」

まあ,
でもまた来るかもな…。
真夜中のシャンプー屋。
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