真夜中のシャンプー屋
「うちはシャンプーだけですけど」

金色の目がこちらを見てる。

「いいです。ブローもお願いします」
「はーい」

シャンプー椅子に乗るとクロスがつけられる。
スカートの足にタオルケットをかけてくれた。気が利く。
たまにそのままの所あるわよね。どういう神経なんだか。
女性が器用に頭のピンを取っていく。
ああ、気持ちいい。楽になった。

「取れないピンは濡らしてからでいいですか?」
「ああ、いいです」
「じゃあ、倒しますよー」

背もたれが倒れる。この時、ちょっと緊張する。
シャンプー台のくぼみに首がのるが、少しずれている。
ちびだからいつもこうなる。

「ちょっと上に来れますか?」

身体を上にずらす。ハマる感触。ふぅとため息。

「オッケーですー。お湯かけますねー」

温かい湯が髪の毛と頭を包みこむ。
緊張していた頭皮が緩むのを感じる。

こんな風に色々洗い流せたらいいのに。
固くなった物、古びた物、汚れた物、全て。
サトルはきっと別の女の所だ。
私の事なんてもう忘れてる。
今日は一人でのびのび寝よう。
どうせ考えても仕方ない。
指の腹で押されている所が気持ちいい。
それだけでいいや。

「はーい、お疲れ様でしたー」

すっきりした。すごい解放感。
1000円なんて惜しくないわ。

「お客様」
「はい?」
「帰って寝ます?」
「そのつもりだけど...」
「じゃあ、これいります?」

女性がごそごそとカウンターの下をまさぐる。
え?まさか?私は買わないからね?

目の前に大きなスカーフ。深い深い青。

「…なに?」
「シャンプー後の髪を汚したくないって人がいて」
「ああ、まあね」
「じゃあ、これで髪を包んだらどうかなってー」
「…ダサくない?」
「やっぱり?」

女性が両手で髪をくるくるさせる。うらやましいほどの艶髪。

「でも深夜ならイケるかな」
「イケますかねー」
「イケるイケる」
「帰るだけですしねー」

なんだか変な女子だ。同じ年くらいだろうか。

「じゃあ、どうも」
「はーい、ありがとうございましたー」

頭と首が軽い。よし、急いで帰って寝よう。
髪が汚れる前に。

また来てみようかな。
真夜中のシャンプー屋
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