カナリアの教室、秘密の恋を
「ねぇ架純ちゃんはあげる人いるの?」

「え?あげる人?」

…とは何だろう?

ただ家庭科の授業で作ってるだけなのにあげる人って、それは何かの儀式かしら?

「亜由は好きな人にあげるんだって」

「ちょっと芝ちゃん言わないでよ!」

「えー、ほんとは言いたいくせに~!」

好きな人にあげる…?

このマフィンを?授業で作ったマフィンを??

そんなしきたりでもあるのかしら。

「架純ちゃんは好きな人いないの?」

「好きな人…?」

「うん、このマフィンあげたい人!」

亜由ちゃんがにこっと笑ってボウルを指差した。

だからつられるように目線を下げてしまった。

まだ全然形になってないマフィンの生地、なんとなく甘い香りがするだけで食欲もそそられないけど。

「好きな人には授業で作ったマフィンを渡すルールでもあるの?」

「別にルールではないけど、手作りお菓子をあげるっていうのはマストじゃない?」

「マスト…」

スペルはmust、最近辞書で引いたわその単語。確か意味は必須とか重要だとか、そんな意味で。

「手作りって気持ち伝わるし、かといってわざわざ家で作って来るって重いじゃん?授業で作ったぐらいが1番ちょうどいいんだよ!」

「そうなのね…、勉強になるわ」

そんなものがあるなんて知らなかった。

今までもそうだったのかしら?私が知らなかっただけでみんな渡して来ていたのかしら?
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