<外伝>政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

レベッカ一行の世界漫遊の旅 1 (カタルパ編 3)

「どうする? レベッカ。荷馬車を引く馬が気絶してしまったよ?」

サミュエル王子が馬を見下ろした。

「そうね……誤算だったわ。馬がいることを忘れていたわ」

「申し訳ございません……」

ミラージュはシュンとしてしまった。

「いいのよ、ミラージュ。貴女は悪くないわ。だって私のお願いを聞いてくれただけなのだもの。私がいけないのよ。馬の存在を忘れていたから」

ミラージュの肩に手を置き、ポンポン叩いて慰める。

「しかし、困ったね。この先どうやって移動しようか?」

「あ! それなら私がドラゴンに変身して空を……」

「「駄目だ(よ)」」

私とサミュエル王子の声が重なる。

「な、何故ですかっ!?」

ミラージュは余程元の姿に戻って自由に大空を飛びたかったのだろう。半分涙目になって訴えてきた。

「私がドラゴンになって空を飛べば、あっという間に目的地へつくことが出来ますよ? 荷物だって全部手に握り締めて飛ぶことだって出来ます。なのに何故ドラゴンになるのを反対するのですか!?」

「こんな昼間からドラゴンになったら目立ってしようがないじゃない」

「そうだよ、ミラージュ。ドラゴンなんて見たことがある人間はほとんどいないんだ。しまいには伝説上の生物とまで言われているんだよ? 見つかればただでは済まないよ。そうは思わないかい?」

さすがはサミュエル王子、あのアホ王子とは全く違う。

「そうですか……分かりました。なら断念しますが……」

「「?」」

私とサミュエル王子は首を傾げると、ミラージュが断言した。

「今夜……夜間飛行を実行させていただきますっ!」

「「ど、どうぞ……」」

またしても私とサミュエル王子はハモるのだった――


****

「本当に馬を起こすことが出来るのかい?」

サミュエル王子が私の背後に立って尋ねてきた。

「ええ。大丈夫、任せて下さい」

私は馬の眉間に手を当てて、頭の中に呼びかける。

「大丈夫です、サミュエル王子。レベッカ様に不可能なことは無いのですよ?」

ミラージュは得意げに言っている。不可能は無い……あまりにもはっきり言いきられると困る。しかし、馬の意識を呼び戻すくらいならどうってことは無い。

<起きなさい>

馬の意識に直接呼びかけると……。

パチッ

馬が大きな目を開けて軽くいななくと立ち上がった。

「おおっ! 立った! 立ち上がった!」

サミュエル王子が拍手を送る。

「本当ですね! 素晴らしい! 立ち上がりましたよ!」

ミラージュも手を叩く。

「さて、では次の馬も起こさなくちゃね」

私は2頭目の馬の頭に手を当てると語りかけた。

<起きなさい>

すると……。

パチリと目を開けた。

「「おお~っ! 素晴らしいっ!」」

またまた拍手をする2人。

「ふふふ……私にかかればこんなものよ。ではさっそく『カタルパ』へ向けて出発よ!」

そして再び御者台にサミュエル王子が乗り、荷台に私とミラージュが座るという形になり、馬車はガラガラと音を立てて出発した――



少しの間、馬車を無言で走らせていたサミュエル王子が話しかけてきた。

「ところでレベッカ、ミラージュ」

「はい、サミュエル王子」
「何でしょうか?」

私の後に続き、ミラージュが返事をする。

「どこか大きな町に着いたら馬車を新しくしないかい? この荷馬車は雨よけがないから雨が降った時に濡れてしまうと思うんだ」

「言われてみればそうですね」

サミュエル王子の言葉に私は返事をした。

雨の心配か……。私にはそんな心配は無用なのだけど。何故なら天候位なら私の力でいくらでも操ることが出来るからだ。
だけどあまり怪しまれるような行動はとりたくないので、ここは素直に賛同しておいた方がいいだろう。
お金の心配なら大丈夫。あの城を抜け出すとき、実はこっそり金銀宝石を拝借してきたのだから。

どんな馬車がいいかな……。

私は荷台の上で新しい馬車に思いをはせた――
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