<外伝>政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
レベッカを探せ 〜キング一家の旅 2
満月の夜――
辺境の村にある寂れた一軒の宿での出来事だった。
「全く……お前のせいでこんな事になったんだからな! 彼女をないがしろにするから私達はこんな目に遭わされてるんだ!」
ドンッ!
アルコールの入ったジョッキをテーブルの上に置くと父が喚いた。
酔うと必ず父は俺に絡んでくる。くたびれた服を着た父はとても国王とは思えない。尤も俺たちの国はレベッカが引き起こした天変地異のせいで滅びてしまったが。
「うるさい、仕方ないだろう? 言い訳に聞こえるかも知れないけどな、あの時は不思議な事にどうしてもレベッカに対して嫌悪感しか感じられなかったんだよ!」
本当に自分自身が不思議でたまらない。あれ程の美少女は滅多にお目にかかれないのに……本来の俺は女性には常に優しい男であるはずだったのに! 何故レベッカを初めて見た時にどうしようもない程の嫌悪感しか感じられなかったのかが未だに謎だ。
そして手触りの悪い麻布を着た自分を見て、ため息をつく。
「アレックス。それで今はレベッカの事をどう思っているんだい? もし彼女に対して何も好意を感じていないなら、見つけた時には僕が彼女を貰うよ?」
同じく、まるで農夫のような格好をした兄のランスがとんでもないことを言ってきた。
「いや、駄目だ。レベッカは俺の妻だ。離婚だってしていないのにお前に渡せるはずないだろう?」
そうだ、今俺がレベッカに抱いている思いは嫌悪感ではなく、畏怖の念だ。レベッカの持つあの不思議な力……何としても手に入れたい。 その為なら彼女の下僕になっても構わないし、愛しているふりを見せて俺に惚れさせるのも手だと思っている。
「駄目だ駄目だ! お前達2人にはレベッカは渡せんよ、私の妻にしようと思っているのだから」
ついに父が恐ろしい事を言ってきた。
「な、何だってっ!? この好色親父が!」
俺は嫌悪感で激怒した。
「そうだ! レベッカのように無垢な女性を父上に渡せるはずないでしょう!? 大体アレックスの代理で新郎役を務めたのは他でもないこの僕だ! 当然彼女を妻にする権利が一番ある! それに僕はアレックスのように邪な感情でレベッカを妻にしようとは思っていないんだよ? 純粋に彼女に好意を抱いているのはこの僕だ!」
「うるさいランス! レベッカは俺の妻だ! お前になど絶対に渡さないからな!」
冗談ではない。何故ランスや父に俺のレベッカを渡さなければならないんだっ!?
「そうか……お前たち、絶対にレベッカから手を引かないというのだな? よし、それならいいことを考えついたぞ」
父がポンと手を叩く。
「何です? どんな考えが浮かんだって言うんですか?」
若干アルコールで頬を赤く染めたランスが父に尋ねた。
「ああ、私達3人で競うのだ。誰が先にレベッカを見つけることが出来るのかをな。一番最初にレベッカを見つけたものが彼女を妻に迎えることが出来るのだ。どうだ? 面白いと思わないか?」
父は下卑た笑いで俺たちを見た。な、何て恐ろしいことを言い出すのだろう?
「それはいいね。よし! その競争……乗った!」
ランスが乗り気になっている。
「何を言ってる! 冗談じゃない! お前ら2人に絶対レベッカを渡すものか! よし、いいだろう! この俺が必ず誰よりも先にレベッカを見つけ出してやるからな!」
目の前のジョッキに入ったワインを一気飲みすると乱暴にテーブルの上に置き、口元をグイッと袖で拭った。
こうしてこの夜、俺達のレベッカをめぐる「仁義なき戦い」が繰り広げられることになった。
父にもランスにも絶対に渡すものか。レベッカは俺のものなのだから――!
<次話へ続く……>
辺境の村にある寂れた一軒の宿での出来事だった。
「全く……お前のせいでこんな事になったんだからな! 彼女をないがしろにするから私達はこんな目に遭わされてるんだ!」
ドンッ!
アルコールの入ったジョッキをテーブルの上に置くと父が喚いた。
酔うと必ず父は俺に絡んでくる。くたびれた服を着た父はとても国王とは思えない。尤も俺たちの国はレベッカが引き起こした天変地異のせいで滅びてしまったが。
「うるさい、仕方ないだろう? 言い訳に聞こえるかも知れないけどな、あの時は不思議な事にどうしてもレベッカに対して嫌悪感しか感じられなかったんだよ!」
本当に自分自身が不思議でたまらない。あれ程の美少女は滅多にお目にかかれないのに……本来の俺は女性には常に優しい男であるはずだったのに! 何故レベッカを初めて見た時にどうしようもない程の嫌悪感しか感じられなかったのかが未だに謎だ。
そして手触りの悪い麻布を着た自分を見て、ため息をつく。
「アレックス。それで今はレベッカの事をどう思っているんだい? もし彼女に対して何も好意を感じていないなら、見つけた時には僕が彼女を貰うよ?」
同じく、まるで農夫のような格好をした兄のランスがとんでもないことを言ってきた。
「いや、駄目だ。レベッカは俺の妻だ。離婚だってしていないのにお前に渡せるはずないだろう?」
そうだ、今俺がレベッカに抱いている思いは嫌悪感ではなく、畏怖の念だ。レベッカの持つあの不思議な力……何としても手に入れたい。 その為なら彼女の下僕になっても構わないし、愛しているふりを見せて俺に惚れさせるのも手だと思っている。
「駄目だ駄目だ! お前達2人にはレベッカは渡せんよ、私の妻にしようと思っているのだから」
ついに父が恐ろしい事を言ってきた。
「な、何だってっ!? この好色親父が!」
俺は嫌悪感で激怒した。
「そうだ! レベッカのように無垢な女性を父上に渡せるはずないでしょう!? 大体アレックスの代理で新郎役を務めたのは他でもないこの僕だ! 当然彼女を妻にする権利が一番ある! それに僕はアレックスのように邪な感情でレベッカを妻にしようとは思っていないんだよ? 純粋に彼女に好意を抱いているのはこの僕だ!」
「うるさいランス! レベッカは俺の妻だ! お前になど絶対に渡さないからな!」
冗談ではない。何故ランスや父に俺のレベッカを渡さなければならないんだっ!?
「そうか……お前たち、絶対にレベッカから手を引かないというのだな? よし、それならいいことを考えついたぞ」
父がポンと手を叩く。
「何です? どんな考えが浮かんだって言うんですか?」
若干アルコールで頬を赤く染めたランスが父に尋ねた。
「ああ、私達3人で競うのだ。誰が先にレベッカを見つけることが出来るのかをな。一番最初にレベッカを見つけたものが彼女を妻に迎えることが出来るのだ。どうだ? 面白いと思わないか?」
父は下卑た笑いで俺たちを見た。な、何て恐ろしいことを言い出すのだろう?
「それはいいね。よし! その競争……乗った!」
ランスが乗り気になっている。
「何を言ってる! 冗談じゃない! お前ら2人に絶対レベッカを渡すものか! よし、いいだろう! この俺が必ず誰よりも先にレベッカを見つけ出してやるからな!」
目の前のジョッキに入ったワインを一気飲みすると乱暴にテーブルの上に置き、口元をグイッと袖で拭った。
こうしてこの夜、俺達のレベッカをめぐる「仁義なき戦い」が繰り広げられることになった。
父にもランスにも絶対に渡すものか。レベッカは俺のものなのだから――!
<次話へ続く……>