魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 三年間というとても短い間だが、機長を務めたこと。これからパイロットの職は離れるが、また別の方面から日本アビエーションを支えていくことを話し、私もなんだか感慨深い気持ちになる。

《最後にひと言伝えさせてください。今座席に座っている、私の妻へ》

 ……えっ、私?

 まさかのメッセージで急に高鳴る鼓動と、お客さんたちの興味津々なざわめきが重なる。

《君がいなければ、こんなに幸せな気持ちでパイロットの職を終えられはしなかったでしょう。大切なことを思い出させてくれた君に、心から感謝しています》

 ──私だけに向けられたその言葉に、目頭が熱くなった。

 私、特別なにかしたわけではないのに。それでも感謝を伝えてくれる気持ちと、誠一さんの心は今この空のように晴れ渡っているのだとわかって、とても嬉しいし安心した。

 ずっと胸に巣食っていた、もやもやとしたものも消えていく。代わりに私の中を占めるのは、彼が愛しいという想いだけ。いつの間にか、こんなにいっぱいになるくらい好きになっていたんだ。

 薬指に光るリングをそっと撫で、自然に口元が緩む。彼の挨拶が終わり、機内には温かな拍手が響いていた。


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