魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 しばらくは心身共に大変な時期が続くだろうし、家に帰った時くらいはしっかり休んでほしい。

 疲労回復にはなにがいいかなと、夕飯を考えながら仕事を終えた三月中旬のある日。事務所を出て歩き始めたところで、黒縁の眼鏡をかけた三十代後半くらいの知らない男性に呼び止められた。

「あのー、突然すみません! 私、週刊『奇論』の清水と申します。羽澄 芽衣子さんでいらっしゃいますか?」

 有名な週刊誌の名前を出されると共にフルネームで呼ばれ、私は驚きと戸惑いで硬直する。

 スーツにダウンジャケットを羽織り、黒いリュックを背負った彼。どうやら記者のようだが、私みたいな一般人になんの用だろう。

 名前や勤務先を知られていたことにやや恐怖を感じて身構える。

「えっと……なんのご用でしょう?」
「今、とある国会議員の贈収賄疑惑について調べているんですが、芽衣子さんのお父様のことで少しお話をお伺いしたくて」

 キャッチセールスのような調子で話されるものの、内容はまったく穏やかじゃなく、私は眉をひそめた。

 父親のことなどなにも知らないし、国会議員の疑惑とどう関係があるのかもわからない。清水さんというらしいこの人の考えが読めなくて、思いっきり怪訝さを露わにする。

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