魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
「私に父はいませんが」
「ああ、もしかしてご存じありませんか? 先月まで日本アビエーションの執行役員を務めていた、益子(ますこ)という男を」

 相手にせず切り上げようとした私は、その名前を聞いて踏み出した足を再び止めてしまった。益子というのは日本アビエーションの資金を横領し、逮捕された主犯格の人物だから。

 清水さんの言い方からすると、その益子が私の父だというの? 私も実際に会った、あの人が? まったく信用できないけれど、なんの証拠もなくこんなふうに接触してきたりはしないだろうし……。

 気になって考え込む私に、清水さんは「少し場所を変えましょうか」と言い、誰かに話を聞かれる心配が少ない屋上デッキへと促した。

 ひっきりなしに離着陸が行われている滑走路を眺めながら、清水さんは今に至った経緯を詳しく話し出す。

「益子が大物議員と繋がっていたという情報を掴みましてね。どうやら金銭の要求や受け渡しがあったようなんです。そこで益子について調べているうちに、彼は愛人との間に子供をもうけていたことがわかりました。あなたと、年子の妹さんを」

 年子と言われてドキリとした。もうそこまで調べているなんて、本当に私たちは親子なんだろうか。……いや、これだけで鵜呑みにしてしまうのは危険だ。

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