魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 そもそも、この人は私に益子のことを話してどうするつもりなのか。言いようのない不安に襲われ、バッグの持ち手をぐっと握る。

「……このことを記事にするつもりなんですか? 犯罪を犯した挙句、隠し子まで作っていたって」
「いえ、さすがに一般の方の家庭事情を載せる気はありません。芽衣子さんだと特定できるような記載はしませんのでご安心を。益子が芸能人ならともかく、一般人のスキャンダルには読者も食いつきませんしね」

 笑みを見せた彼はケロッとした調子で答えた。私と梨衣子の情報は流れないようでほっとするが、読者の需要があるかないかで区別されるのはなんとなく複雑な気分になる。

「我々の目的は、あくまで贈収賄の事実を明らかにすること。今はただ、どんな些細なことでもいいので情報が欲しいんです。もし益子があなたや妹さんに接触してきたら、こちらにご連絡ください」

 清水さんは表情を引きしめ、名刺を差し出した。私がそれを受け取ると「お時間を取らせてしまってすみませんでした」と頭を下げ、あっさり横を通り過ぎていった。

 私は名刺を持ったまま、しばし立ち尽くす。

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