魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
「横領で捕まった益子が、議員にも賄賂を贈っていたと新たな容疑がかけられている。もう日本アビエーションの人間ではないからいいんだが、問題は彼の家族関係だ」

 誠一さんが語り始めたのは、やはり想像通りの内容。こうなると先に打ち明けておけばよかったと少し後悔するけれど、後の祭りだ。

「益子は結婚していて息子がひとりいると言っていたが、今の家庭とは別に隠し子がいたらしい。これを信じるわけじゃないが、その子供というのが……」

「私と梨衣子 、なんですよね」

 言いにくそうに濁らせる声に被せると、彼はこちらを向いて目を見張った。

「知っていたのか?」
「実は、少し前に週刊奇論の記者が私のところに来て、その人から聞いたんです。戸籍謄本を調べたら本当でした。誠一さんの会社に迷惑をかけた人の子だって知られたら、どう思われるか怖くて……黙っていて、本当にすみません」

 顔を見られず俯いたままでいると、大きな手が背中から回され、しっかりと肩を抱き寄せられた。

「ひとりで抱え込んでいたんだな。芽衣子の気持ちもわかるから責める気はないし、誰の子でどんな生い立ちだろうと、君への俺の想いは絶対に変わらない。だから安心して、なんでも話してくれ」

 彼の優しさにじんとして、思わず瞳が潤む。この逞しい腕はどんな時も包み込んでくれるのだと実感し、「ありがとうございます」と頬を緩めた。

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