魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 理不尽な思いをなんとか振り払い、止まってしまっていた手を無心で動かした。

 こうして溜まった鬱憤は、お昼休みに郁代さんの前で吐き出させてもらっている。CAさんが私のことを話していたと愚痴ると、彼女は綺麗な顔をムッとしかめ、お弁当のから揚げにグサッと箸を突き立てる。

「それは羽澄さんを取られたのが悔しいだけなんじゃない? 陰口叩くような性格だから選ばれないんだってことを自覚しろっつーの、このすっとこどっこいが!」
「久々に聞きました、その言葉」

 自分のことのように怒ってくれる郁代さんのおかげで、気持ちを落とさずに笑っていられる。

 私が益子の隠し子だという話は、もうだいぶ広まっている気がする。一部の清掃員仲間も、口には出さなくても態度がよそよそしく感じる時があるので知っているかもしれない。

 そんな中、郁代さんにだけは自分から事情を明かした。彼女は私の境遇を知ってもなにも変わらずに接してくれている。今も、励ますように背中を優しくぽんぽんと叩く。

「大丈夫、芽衣子ちゃんはなにも悪くないんだもの。堂々としてなよ。きっとそのうち収まるからさ」
「はい……ありがとうございます」

 誠一さんとの結婚で文句を言われるのは覚悟していたし、郁代さんの言う通りしばらく我慢していればそのうち皆飽きるだろう。あまり気にしすぎないようにしようと思い、笑みを返した。


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