魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい

 誠一さんのご両親と会ってから、私はさらに思い悩む日々を過ごしている。彼は『なんでも話して』と言ってくれたけれど、今の悩みは相談したところで甘やかされて終わってしまうだろう。自分でなんとかしなくては。

 数日後の夕方、私は平日休みだったので、買い物に出たついでになんとなく誠一さんと一緒に歩いたボードウォークをひとりぶらぶらしていた。

 約一年前、ここでプロポーズされて契約婚が始まった。これまでのことを思い返していると無性に彼に会いたくなって、歩いても行ける日本アビエーションの本社に自然に足が向いていた。

 いつの間にか辺りは暗くなってきている。もうすぐ終わる頃だろうし、近くで待っていようかな。一緒に帰りたい。

 本社の前に差しかかったところで、誠一さんに連絡しようとスマホを取り出す。歩道の端で立ち止まってメッセージを打っていると、本社のほうから誰かがやってきて私のそばで足を止めた。

「あれ、君……誠一くんの奥さん、だよね? 前にパーティーで会ったの、覚えてるかな。山中です」

 少しふくよかな輪郭に眼鏡をかけた、五十代後半くらいの男性の顔をしっかり見て思い出した。この方は日本アビエーションの宣伝部の部長様だと。

< 134 / 212 >

この作品をシェア

pagetop