魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
「無理に明るくしようとしてるだろ。俺の実家に行った辺りから、なんとなく様子が違うと思ってたが。なにがあった?」

 呆気なく図星を指され、一瞬ぎくりとした。

 どうして私の些細な違和感に気づけるのだろう……誠一さんはさすがだ。でも、今だけは暗くなる話を避けたい。もしかしたら今夜は、ふたりで幸せに過ごせる最後の夜になるかもしれないから。

 私はふっと口元を緩め、この間お義父様たちから聞いた愛犬の思い出話で茶化す。

「わかっちゃいました? 実は、誠一さんたちが昔飼っていたワンちゃんが、出張に行ったお義父様の帰りをずっと玄関で待ってたって話を聞いて、忠犬ハチ公を思い出して感動して……」
「名前はパトラッシュだったけどね」

 誠一さんのツッコミが面白くて、作りものではない笑い声をあげた。羽澄家の愛犬パトラッシュのカオスな話は、こんな時も和ませてくれる。

 彼も笑いながら私の頬を両手で挟み、「こら、ごまかさない」と仕切り直した。一度笑って気持ちが解れた私は、本心をほんの少しだけ覗かせる。

「本当は、休みだったのに誠一さんと一緒にいられなくて寂しかったんです。たくさんぎゅってしていいですか?」

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