魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 だからなにも謝る必要はないと伝えたくて、首を横に振り「梨衣子……」と言いかけたものの、彼女が凛とした笑みを浮かべたので口をつぐんだ。

「今度は私が姉孝行するから、誰よりも幸せになるんだよ。もう私のためじゃなくて、自分のために生きていってね。これまで本当にありがとう」

 ほんの少し瞳を潤ませ、私の手を握って投げかけた彼女の力強い声が、心の奥にずしりと届いた。

 嬉しさよりも、私はお役御免となったのだと実感が湧いてきて空虚感が上回る。……梨衣子に〝行かないで〟とすがりたくなってしまう。

『自分を大切にしてくれる人、大切にしたいと思える人に優しくして、尽くしなさい』

 幼い頃、母はよくそう言っていて、亡くなる直前にも同じことを私に伝えた。実際、彼女はいつも自分より私たちを大事にしてくれて
いた。

 遺言のようなそれを守って、母の代わりに私が梨衣子に尽くしてきたけれど、決して義務のように感じていたわけじゃない。むしろ私の生きがいになっていたのだ。

 大好きな妹も、生きがいもなくなってしまうと思うと悲しみが込み上げてくる。泣かないと決めてずっと抑えていたのに。

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