魅惑の航空王は最愛の元妻を取り戻したい
 特別な日だ、忘れるわけがない。当日はレストランで食事して、花でも贈ろうかと考えていたのだから。

 しかし、芽衣子が考えていたのはまったく逆のことだったらしい。

「その日で契約期間が終わります。私が同意しなければ、更新はできませんよね」

 そう言われてはっとした。契約を破棄しようと話した二カ月ほど前、芽衣子は『契約が終わる日にお返事します』と言ったので、確かに解消されてはいない。

 ただの口約束でも契約は成立するし、法的な効力もある。腹黒い俺はそれを利用し、半ば強引に彼女を自分のものにして逃げられなくした。今度は彼女が、同じやり方で離婚を認めさせようとしている。

 そうまでして、俺と別れたいのか……。絶望の淵に立たされたような気分で、しっかりとした表情に戻りつつある愛らしい顔を見つめる。

「私は今のこの状況で、結婚生活を続けようとは思えません。契約期間が終わったら、ここを出ていきます」
「芽衣子」
「これが、私の望みなんです」

 悲しげに微笑む彼女のひと言で、反論が出てこなくなってしまった。

 自分よりも人のことを優先してきた子だから、彼女自身の望みも口にしてほしかったし、なんでも叶えてやりたいと思っている。だからって、こればかりは承知できそうにない。

 彼女の意思を尊重するべきか、強引にでも手放さないでおくべきか。この場で答えを出すことはできず、頭を抱えるしかなかった。


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